短編 | ナノ

君が好き

「菅原(すがわら)ってあんなイケメンだったんだな、全然知らなかったわ」
「……」
窓側の一番後ろの席に座る菅原くんへとクラス中の生徒の視線が集まっていることにイライラする。
何なんだまったく。少し前までみんな菅原くんに一切見向きもしてなかったくせに!!

同じクラスの菅原くんは少し前まで大きな眼鏡と長い前髪で、全体的にモサモサした見た目をしていた。
常に菅原くんは1人で行動し、クラスに居るのか居ないのか分からないぐらいの存在感で、菅原くんに誰かが関わっている姿だって今まで見たことがなかった。
なのに今はみんなが菅原くんに注目しており、「ねぇねぇ菅原くん!」と休み時間になる度にクラスメイト達が菅原くんに話しかけている光景に、さっきからずっと僕はイライラとモヤモヤを募らせていた。

菅原くんは僕の恋人なのに。






菅原くんに告白されたのは3ヶ月も前のことだった。
元々僕と菅原くんは名前順が前後で、高校2年に上がった当初から菅原くんと接する機会が多かった。
そんな菅原くんに突然放課後に呼び出され、「篠原(しのづか)くんが好きです」と告白をされた。
始業式から2ヶ月が経ち、その間で見た目はモサモサしているが、菅原くんがとても良い人だということはわかっていた。
でも男同士だし、と菅原くんからの告白を断ろうとしたが、「好きなんです」と一生懸命な菅原くんの姿に僕は断ることができなかった。

断れなくて付き合ってしまったが、僕と一緒に居るだけでも嬉しそうにする菅原くんに『本当に僕のことが好きなんだなぁ』と伝わり、そんな菅原くんのことを僕も徐々に恋愛感情で好きになっていった。

そしてつい先日、初めてキスをした時に菅原くんの大きな眼鏡が顔に当たって邪魔だった。
だからキスに固まる菅原くんを他所に「これ外すよ」と菅原くんの眼鏡を勝手に外すと、くっきりとした目が現れた。
ん?と思い、長い菅原くんの前髪も上げてよくよく顔を見てみると、菅原くんの顔のパーツはどれも整っていた。

「ど、どーしたの篠原くん?」
「菅原くんってコンタクトにしたり髪切ったりとかしないの?」
「……その方が篠原くんは好き?」
「いや。そういうわけじゃないけど、きっとカッコいいだろうなぁって」
それでその話は終わったが、昨日のデートの際、菅原くんはコンタクトにして髪も切ったスッキリした姿で現れた。
金曜に学校で会った時はまだいつも通りのモサモサした見た目だったのに、今日の菅原くんはあまりにもイケメンで、声を掛けられるまで菅原くんだということに気付けなかった。

「どお、かな?」
「……めちゃくちゃカッコよくて驚いてる」
「本当?嬉しい」
丸っきり見た目が変わってしまったことに驚いたが、僕に褒められて喜ぶ菅原くんはいつも通りの菅原くんだった。
今まで長い前髪で見えなかった分、しっかりと嬉しそうな菅原くんの顔が見えて僕まで顔が緩んだ。

今までデート中に周りから視線を感じることはなかったが、その時はたくさんの視線を感じた。
みんなが菅原くんを見ていた。
それに対し『どうだ!僕の恋人イケメンだろ!!』と少し自慢気に思っていたが、ずっと周りが菅原くんを見てくるし、週明け学校に行くと、モサモサだった菅原くんが実はイケメンだったことにクラス中がざわめいた。


「いやぁ、男だとしても今の菅原に告白されたら俺OKしちゃうわ」と言う友人に『僕は菅原くんの見た目に惚れた訳じゃない!!!見た目なんて関係なく、菅原くんだから僕は惚れたんだ』と、思わずギッと睨みつけてしまったが、そのことに友人は気付くことはなかった。










「篠原くん!」
「……」
放課後、クラスメイト達に遊びに誘われている菅原くんを尻目に何も言わずに帰ったからか、菅原くんが慌てて追いかけてきてくれた。

『もしかしたら追いかけてくれるかも』と思っていたが、本当に菅原くんが追いかけて来てくれたことが嬉しくて、少し冷静になれた。
ただ冷静になった瞬間、なんて醜い嫉妬なんだ、と我ながら思った。
恋人がモテている姿にモヤモヤし、『僕の恋人なのに』と今日1日ずっと僕はヘソを曲げていた。

後ろを振り返り、追い掛けてきてくれた菅原くんを見ると、とても不安そうな顔をしていた。
どんなに見た目が変わろうと、相変わらず菅原くんは僕のことを好きで居てくれてることはわかっていたし伝わっていた。
その証拠に、見た目が変わったことで注目され、『どうして容姿が変わったのか?』というクラスメイトからの質問に「恋人に褒めてもらいたくて」とはにかんでいるのも僕は見ていた。


「……ごめん。菅原くんは何も悪くないよ。見た目が変わったことでモテてる菅原くんを見てたら『このままじゃ僕よりもずっと素敵な人を菅原くんは選ぶんじゃないか』ってすごく心配になったし、『菅原くんは僕の恋人なのに!』ってずっと嫉妬してた」
正直に思っていたことを話し顔を上げると、菅原くんは大きく目を見開き、そのあと嬉しそうに顔を緩めた。

「嫉妬、してくれたの?……嬉しい。それだけ篠原くんは僕を好きで居てくれてるってことだよね?」
クラスでポツンとしていた僕に篠原くんが振り返って声を掛けてきてくれた時から、ずっとずっと僕は篠原くんのことが好きだったから、そんな風に思ってくれてるだなんて夢のようだよ。

道端だというのに抱き締めそうな勢いでそう言ってくる菅原くんに少し笑ってしまった。


「篠原くん、大好きだよ!!」
「知ってるよ」







補足

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