短編 | ナノ

大学生×サラリーマン

恋人が居たらどんな感じなんだろう、とふとそう思った。

自分が男を好きだと自覚したのは10代の頃だった。
周りはみんな女性にばかり目が行っているのに、俺はいつも男にしか目が向かなかった。
しかも毎回何故か好きになる相手は恋人がいるノンケで、ただでさえ同性ってだけでもハードルが高くなっているのに、既に恋人がいる相手じゃ尚更この恋が実るわけがない。
そのせいで今まで誰かと付き合ったことはなく、そんな俺にとって『一度でいいからデートしてみたい』というのは、レンタル彼氏を申し込むのに十分すぎるほどの理由になった。




「こんにちは、春人(はると)さんですか?」
「そうです。今日はよろしくお願いします」
レンタル彼氏を申し込む時、本当は自分よりも年上の人が良かった。
だけどどのサイトを見ても自分よりも年上の人を見つけられず、それならもう直感で選んだ子にしよう、と選んだのが朝日(あさひ)くんだった。
22歳の大学4年生で自分よりも一回りも下だけど、年齢よりも随分と落ち着いた雰囲気に、『この子がいいな』と朝日くんにした。


「よろしくお願いします。春人さんは今回どこか行きたいところってありますか?」
待ち合わせ場所で待っていると、予定の時間ピッタリに朝日くんは現れた。
実際に会ってみるとプロフィール写真よりもイケメンで物腰も柔らかかった。
お金を払った上で付き合う関係ではあるが、こんな素敵な子と今日1日だけでも恋人で居られるのは役得だった。

「いや、特には。……強いて言うなら恋人同士が行くようなところへ行ってみたい、です」
いい大人が『ベタな場所に行きたい』だなんて、めちゃくちゃ恥ずかしいことを言っている自覚はあるが、レンタル彼氏を申し込んでいる時点で恥はその辺に捨てた。
俺の返事を聞いた朝日くんは柔らかく微笑み、「そうですねー……なら水族館はどうですか?」と尋ねられた。

「っ!!良いと思います」
「よかった。じゃあ水族館に行きましょうか」
俺の希望を叶え、如何にも恋人同士っぽいデートスポットへ行くことになり、一気に俺のテンションは上がった。
今まで夢見てきたアレコレが実現することにワクワクしながら駅に向かって歩き出そうとしたが、その前に朝日くんにギュッと手を握られ、思わず立ち止まってしまった。
驚いて朝日くんの方を見ると、ニコッと笑い掛けられた。

「今から僕は春人さんの彼氏なので、たくさん甘えてくださいね」









朝日くんとのデートはとっても楽しかった。
朝日くんは生き物についての知識が豊富なようで、水族館では「この魚は夜になると外敵から身を守る為、砂に潜って眠るんですよ」とわかりやすく説明をしてくれた。
それに「へー。すごい」と思ったことをそのまま伝えると、「どの話も春人さんが驚いてくれるので、話すのが楽しいです」と、このデートを朝日くんも楽しんでくれているようでホッとした。

あからさまにイチャイチャすることはなかったが、朝日くんはさりげなくリードしてくれたり俺の方が年上なのに甘やかしてくれたりした。
そして最後には連絡先が書かれたメモを渡され、「連絡待ってますね」と言い、改札の前まで見送ってくれた。

正直、レンタル彼氏は1回だけのつもりでいたが、あんなにも楽しい時間が過ごせることを知ってしまったら、またレンタル彼氏をしてみたくなる。
デート中、朝日くんは何度も「可愛いですね」「好きです」とそう言ってくれた。
仕事だからそう言ってくれてるんだとわかってはいるが、やっぱり言われると嬉しかった。
『こうやって人間は沼にハマっていくのか』と実感しながらも、朝日くんに渡された連絡先に掛けると、3コール目で朝日くんが電話に出た。

『もしもし。春人さんですよね?なかなか連絡もらえなかったんで、この前のデートが楽しくなかったのかなと心配してました』
「いや、そんなことないですよ。すごく楽しかったです。……それで、その、また朝日くんと一緒に出掛けたいんですけど大丈夫ですか?」
『もちろんです』

直ぐにお互いの空いてる日を伝え、その日のうちに次の予定を立てた。







前回はレンタル彼氏のサイト経由で支払いを事前にしていたが、今回はサイトを経由をしていなかったためどうすればいいかわからず、朝日くんと会って早々今回の支払いについて尋ねると、「え?」と驚いた顔をされた。

「朝日くん?」
「あー、なるほど」
何か納得したように笑う朝日くんもとてもカッコよくて見惚れていると、「春人さん。普通、お客さんに直接自分の連絡先を渡すことなんて無いんですよ」と言われた。
普通は渡さない?でも渡してくれたじゃないか?とそう思いながら朝日くんを見つめていると、スッと目を細め、「可愛いですね」「好きです」と囁かれた。

「え!?……もしかして、これって本気で口説いてます、か?」
そんなことありえない、と思いながらも聞いてみるが、朝日くんは俺からの質問に否定をせず、「僕に想われるのは迷惑ですか?」と言ってきた。
多分朝日くんは拒否されないとわかっていて聞いている。
照れながら「そんなこと、あるわけない……」と言葉を絞り出すと、ふふふと笑われた。







補足

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