短編 | ナノ

モテ男×チョロ男

目が覚めると見知らぬ部屋に俺は居た。
痛む頭と違和感のある腰に『ヤッちまった……』とそう思いながら、気配を感じる隣を恐る恐ると見てみると、そこには今藤(こんどう)が居た。
驚いて思わず叫び声を上げそうになったが、咄嗟に口を両手で押さえたことで、声が漏れ出ることはなかった。

あぁ……ごめん、今藤。本当にごめん。
何故こんなことになったのか、昨日の記憶を懸命に思い出そうとするが、なかなか思い出せない。
でもこれだけは確実にわかる。
多分誘ったのは俺の方だわ。






今藤とは友人に誘われて行ったサークルの飲み会で初めて会った。
すでに俺は何杯かビールを飲んでおり、「はじめまして」という声と共に、誰かが俺の隣へと座って来た。
誰だ?と思いながら隣を見ると、今まで出会った中で1番と言ってもいい程の顔面力のイケメンが居て、思わず俺は呆然としてしまった。

「……はじ、め、まして」
「ん?大丈夫?」
変な返事をする俺をおかしそうに笑いながら見つめてくるイケメン君に、自分でも顔が赤くなっていくのがわかった。
「いやだって、あまりにもイケメンすぎてビビったわ」と告げると、その言葉を言われ慣れているのか、「ありがとう」と言ってニッコリと笑うから、さらにイケメン君へと俺は目が奪われた。

そういえば飲み食い目当てでこの飲み会に参加したが、飲み会が始まってすぐの時、誰かが遅れてやって来たようで、「今藤くんやっと来たー!」「今藤、こっちで飲もうぜ」と周りがガヤガヤとしていたのを今藤と自己紹介しあっている時にふと思い出した。
その時は周りの奴らで今藤の姿を見ることができなかったが、こんなイケメンが来たらそりゃみんな騒ぐよな、と今更納得した。
「やっとのんびり飲めるわー」と言いながらビールを飲み、「門倉(かどくら)くんは休日はいつも何してんの?」とたわいの無い話を俺に振ってくるから『ありえねぇぐらいイケメンなのに普通だし、好感度しかないじゃん』と驚く。

「やっば。今藤って案外普通だな」
「……それは褒め言葉として受け取っていいやつ?」
「めっちゃ褒めてる」
そっか、と嬉しそうに笑う今藤に「そんだけイケメンならもっと性格がひん曲がっててもおかしくないだろうに俺にも気軽に話し掛けてくれるし、今藤って良い奴」と話すと、「イケメンに対しての偏見がすごいけどまぁわかるよ。門倉くんが言う通り、みんな俺に色々と期待してくるけど、俺は別に普通なんだよ」と愚痴を零した。

色々と話していくうちに今藤に気に入られたのか、「今藤くんこっちに来てよ」と周りに誘われても、「なぁなぁ今藤」と隣に来た奴が話し掛けてきても、今藤は俺の隣から退くことはなかった。
むしろ膝と膝がくっつくぐらい近付き、ずっと俺の太もも辺りに手を置いてくるし、「これ美味いよ。門倉くんも食べてみて」と自分の食べかけを俺に渡してくる。
男同士だとわかってはいるが、今藤の顔面力や俺を特別扱いしてくれることに内心ドキドキが止まらなくなる。


その時から『ヤバイなぁ』とは思っていたが、飲み会後も今藤は大学で俺を見つけるたび、「門倉くーん!」と駆け寄ってきてくれたり頻繁に遊びに誘われたりしていたことで、まんまと俺は今藤のことを好きになってしまっていた。
我ながら自分のチョロさに笑ってしまう。

多分俺は今藤に『気軽に話せる友達』だと思われている。
自分の容姿のせいで上部だけの友達が多く、心から話せる相手はなかなか居ない、と今藤自らが話していた。
それなのに数少ない気軽に話せる友達だと思っていた奴に好意を寄せられていただなんて、きっと今藤からしたら裏切られたようなものだと思う。
だから俺の気持ちが無くなるか落ち着くまでは、今藤とは距離を取っていた。

なのに酒の勢いでヤッてしまうとか、マジでやっちまった。
きっとこれはもう友達にすら戻れないやつだろ。



少しずつ思い出してきたが、久しぶりに昨日飲み会の席で今藤と会った。
たまたま誘われた飲み会で、事前にこの飲み会に今藤が来るってわかっていたらこの飲み会には来ていなかった。
今藤を見つけたら瞬間直ぐに帰ろうと思ったが、その前にバチリと今藤と目が合った。
やば……と思ったが、今藤は前みたいに俺へと近付いてくることはなかった。
前までなら間違いなく俺の元に駆け寄ってきてくれたが、それがなくなったことを悲しく思い、『ならいいや』と結局帰ることを辞め、その場で俺は飲み続けた。

先に俺が今藤を避けていたが、いざ自分が避けられるようになるとこんなに苦しいのか、と悲しさを紛わせるためにガバガバとヤケ酒をしていたことで、途中から記憶がない。
でもまどろみの中、「門倉くん」といつの間にか今藤が隣に来て、俺の名前を呼んでいたことを何となく思い出した。




「……んっ」
昨日のことを必死に思い出していると眠っていた今藤が身じろぎ、目を覚ました。
バチリと目が合うと、少し固まったあと表情を緩ませた今藤は何か言おうとしていたが、その前に「本当にごめん、今藤。どう言い訳すればいいかわかんないんだけど、絶対俺からだよな?いやぁ、あの、その……はぁ、ごめん。ずっと俺のことを友達だと思ってくれてたんだろうけど、俺はお前のこと前々から好きだったんだよ」と謝った。

「うん」
「酔った勢いで俺から迫ったんだろ?男から迫られるだなんて嫌だったよな。すまん」
ベッドの上で土下座をし、『もう俺の顔も見たくないだろう』と思い、「二度とお前の前には姿を見せないようにするから」と言い、ベッドの下に散らばっていた服を集めていると、いつの間にかベッドの下に降りて来ていた今藤に手首を掴まれた。

「ねぇもしかして門倉くん、昨日の記憶ない?ならしょうがないんだけど、俺達って付き合い始めたんだよ」
「……え?」
ニッコリと笑う今藤は相変わらずイケメンだった。

















門倉くんが言うように、誘ってきたのは門倉くんだった。
でもそれを拒否らずに受け入れたのは俺。
これはチャンスだったから。

少し場に疲れていて周りを見回した時、黙々と飲み食いをする門倉くんが目に止まり、俺から門倉くんに近付いた。
あそこならゆっくりできるだろうと移動したが、案の定ゆっくり飲み食いができたし、その上門倉くんに出会うことができた。
常に俺は腫れ物のように扱われていたが、門倉くんは『今藤って案外普通だな』とそう言ってきた。
それが俺はとっても嬉しかった。

多分それがキッカケで俺は門倉くんのことを好きになったが、それからしばらく経った頃、何故か門倉くんに避けられるようになった。
いつもなら去っていく人間を追い掛けることなんてなかったが、このまま門倉くんを手放すことが俺は絶対に嫌だった。

偶然を装って同じ飲み会に参加し、門倉くんの酔いが回るのを俺はひたすら待った。
飲むペースが早かった門倉くんは直ぐに酔い潰れ、「門倉くん」と声を掛けると、「んん」という返事が返ってきただけだった。
周りに一言告げた後酔っ払った門倉くんを自分の家へと連れて帰り、なんで俺を避けるようになったか聞こうと思ったが、その前に俺を俺だと気付いた門倉くんは「好きだよ、今藤」と言った。

「……え?門倉くん、俺のこと好きなの?」
「ん」
「そうだったんだ……」
その言葉が嬉しくて思わず顔が緩んでしまうが、無理矢理引き締める。

「じゃあさ、門倉くん。俺のことが好きなら何か俺としたいことある?」
「したいこと……?あー、ちゅー。キスしたい」
「する?」
「する!」
俺の返事を聞いた門倉くんはゆっくりと俺に近付き、軽くちゅっとキスをしてきた。

「……もっと」
「いいよ」


誘ってきたのは門倉くんだよ。
でもそう仕向けたのは俺だけどね。







補足

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