短編 | ナノ

小国王子×大国王子

10歳になるかどうかの頃、僕はほんの数時間だけ家出をした。


僕が生まれた国、パルサルトは世界一の領土を持つ大国。
そんな国の第三王子として生まれてきた僕は、家族の中でただ一人、平凡な顔付きをしていた。
親や兄達は皆顔が良く、その上頭も良かった。
小さい頃から礼儀作法や勉学など厳しく育てられたことで、頭の出来は兄達と比べれば少し劣るが悪くなく、振る舞いも王子らしくできていると思う。
だけどどんなに努力しようが、顔だけは生まれ持ったものなのでどうにもできない。
家族は僕一人が平凡顔だとかそんなことはどうでもよく、たくさんの愛情を注いでくれたが周りは家族とは違った。
自分達が慕う見目麗しい王族達の中に平凡顔がいるのが嫌なのか、『きっと拾った子だ』とコソコソと陰口を叩いてきた。
幼いからわからないだろうと言ったのかもしれないが、それぐらい幼くたって理解できる。
特に専属の教師は過去に兄達を見ていたこともあり、少しでもミスをすると「お兄様方はこんな問題すぐに解いていたというのに……やはりこの家の子ではないんでしょうね」と面と向かって嫌味を言ってきた。
悔しさはあったが何も言えず、我慢に我慢を重ねた。
だけどどんなに頑張ろうが褒められることはなく、むしろほんの小さなヘマを誇張して叱られ、積もり積もった鬱憤はとうとう爆発し、僕は家出という暴挙に出た。
『僕はこの家の子ではないようなので、家を出ます』と書き殴った手紙を自室の机に置き、勢いのまま街へと出た。

日々家族からの愛情を感じ、実の子であることも理解していたが、その時だけは『みんな顔が良いから僕だけが色々言われるんだ。こんな家、生まれたくなかった』と冷静な思考ではいられなかった。


意味もなくがむしゃらに走り続け、気が付けば森へと迷い込んでいた。
ハッとして後ろを振り向くが、どこを見渡しても真っ暗い木木が生い茂り、一気に心細くなったことで次第に涙が溢れ出てきた。
落ち込みはじめた気持ちはとどまることはなく、今までの嫌味まで頭に浮かび、涙の止め方がわからずひたすら声を上げて泣いた。
泣いても泣いても気持ちは晴れることはなく、『僕はこのままここで死ぬんだ』とまで考えていると、ガサガサという音と共に馬にまたがった若い男が現れた。
驚いて泣くのも忘れ、ボケっとしてると、男は顔を歪め心配そうに「こんなところでどうしたんだい?」と声を掛けてきた。

この人知ってる。確かどっかの国の王子だ……
いつかのパーティーの時にこの男を僕は見たことがあった。
とてもカッコいいのに腰が低く、控えめな態度が王子っぽくなくて印象的だった。
向こうは僕を知らないようで、「迷子かい?大変だ」とどうしようと慌てふためきはじめ、僕は泣いていたのも忘れて今度は笑ってしまった。
僕よりも年上なのになんて頼りないんだ。
だけど男は本気で心配しているらしく、「怪我はない?」「親御さんは?」と質問してくる。男を安心させるため大丈夫だということと、「今、家出中なんです」と伝えると、男は黙って僕の話を聞いてくれた。
自分の素性を隠しながらの説明できっと変に思ったかもしれないが、それでも男は「頑張っている君に怒るなんておかしい」と怒ってくれた。
そして「目鼻立ちなんて整ってて俺は可愛いと思うけどなぁ」と褒めてくれた。
家族以外に褒められるのなんて初めてかもしれないと、また涙が出てきた。
泣く僕に男はまた慌てはじめ、またしてもその姿に涙が引っ込んで笑いに変わった。

男に話したことで落ち着きを取り戻した僕は、男に街まで送ってもらい、城へと戻った。
戻るととても心配してくれていたようで家族にギュッと抱きしめられた。
こんな愛されてるのになんてバカなことしたんだろうと一人反省した。
そして家出に至った経緯を話し、あの専属教師は城から居なくなった。


それから少し経った頃、パルサルト主催で行われたパーティーで、僕はあの男と再び会った。
父である国王が「息子のハルです」と僕のことを紹介し、会釈から顔を上げると男はポカンと口を開けて唖然としていた。
カッコイイ顔が台無しだなと思わず笑ってしまったが、僕のことを覚えててくれたんだなと今度は嬉しくなった。
『この人が好きだ。この人と結婚したい』と、僕は齢10にして8個も年上の男に恋をした。









それなのに
「ハル王子、俺と結婚してください」
「いや私の方が良い男です」
「ここにいる誰よりも我が国に来ることが王子の幸せになります」
「俺のところへ来い」
なぜどうでもいい奴らにばかり求婚されるのか……

20歳を超え、遠く離れた国にある学校を卒業して戻って来ると、他の国の王子が毎日城へ来て求婚してくるようになった。
平凡な見た目だが、一応大国の三男坊。
僕と結婚することで大国をバックにつけられるため、見た目は平凡だが経済的価値があるようで驚くほどモテた。
だけど肝心のあの男はいくら待っても求婚に来ない。
1年弱待っても来ず、なんで来てくれないんだと僕から手紙を送るとやんわりと断る手紙が返って来た。
オブラートに包み過ぎて意味が伝わらなかったのかと今度はハッキリと結婚を申し込む手紙を送ると、またしてもやんわりと断る手紙が返って来た。
わかっていて断ってるのかと理解し、一気に落胆した。
平凡な見た目をしているが、家柄は申し分なく利用価値があると自負している。
だからどの国も喉から手が出るほど僕を欲しがっていて、きっとあの男もそうだと思っていた。
だけど所詮男。女のように柔らかい身体じゃないし、見た目も平凡な僕じゃダメなんだ。
今まで無駄に溢れていた自信が消え失せ、今度は自分の自意識過剰さが恥ずかしくなった。

カッコよくて優しい男だ。
小さい国の王子だとしても男はモテる。
それに平凡な僕よりもきっと可愛いお姫様との方が絵になるし、もしかしたらすでに良い人がいるのかもしれない。

恥ずかしい。
平凡男だとしても利用価値があり、必ず結婚相手にしてもらえると勝手に思い込んでいた。
だけど利用価値があるとしても僕じゃダメなんだ。
穴があったら入って、もう出てきたくない。



その日から全てがどうでもよくなった。
今まで家族には決めた人がいるからとお見合いを断ってきたが、もう誰と結婚したって同じだと家族に丸投げした。
最初は心配していた家族だが、良い機会だと表向きはパーティーと表し、僕の結婚相手探しを決行した。
乗り気ではなかったが家族が僕のために作ってくれた機会だと、落ち込んでいる気持ちを押し隠して当日は笑顔で対応した。
会う人会う人、思ってもいないだろうお世辞を言い、それを僕は笑顔で返す。
みんな必死で自分をアピールしてくる中、ある一人は一向に僕に近付いて来ようとしない。
部屋の隅っこで隠れるように佇む姿に思わずため息が出そうになる。
それならこっちも近付かないようにしようと、出来るだけ見ないようにするが勝手に目が追ってしまい、胸にモヤモヤが溜まっていく。
出来るならもう部屋に戻りたい……

一旦気持ちをリセットしようと庭に出て少し歩くと、気が抜けたからか足腰の力が抜けてペタンと芝生に座り込んでしまった。
考えないようにしていたものが一気に頭に浮かび、次から次へと涙が出てきた。

「こんなところで……どうしたんだい?」
聞こえた声に振り向くとあの男がいた。
パーティーに参加していたが近付いてくる様子がなかったのになんでこんな時に来るんだか。

「なんでもないです。ただ少し疲れて……」
「そうだね。あんだけ色んな人からアプローチされたら疲れるよね」
そっと寄り添ってくれる男にさらに涙が出た。

「……僕のプロポーズ断っておきながら、なんで今日来たんですか……」
「……俺はズルイ奴だから。俺みたいな小さい国の王様じゃ君を幸せにしてあげられないとわかっているのに、君が誰かのものになるのかと思ったらどうしても我慢できなくて……」
身分を弁えなきゃと自制してたけど、君にアプローチする人を見てたら『俺の方が絶対に君のことが好きなのに……』って、幸せにしてあげられる自信はないのに、気持ちだけは誰にも負ける気はなくて……

「なんですかそれ……」
必死で伝えてくる姿に、心の声が思わず出てしまった。
めちゃくちゃ僕のこと好きじゃないか……
さっきまで泣いていたことや落ち込んでいたことも忘れ、『この男はまったく……』といつの間にか僕は笑っていた。







補足

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