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▼ 元人気者×元健気3

リクエスト


『今週の日曜日って暇?暇なら美知ちゃんと3人で、夢の国へ行かない?』
そう突然柳瀬川くんに誘われたのは数日前で、即座に僕は柳瀬川くんに了承の返事をした。


数年振りに高校時代好きだった柳瀬川くんと再会し、なんだかんだで僕はよく柳瀬川くんと遊ぶようになった。
僕が…というより、遊んでるのは柳瀬川くんと美知の2人だが…

前にたまたま柳瀬川くんとショッピングモールで会って家へ招待した日、美知は相当柳瀬川くんの事を気に入ったらしく、ことあるごとに『悠お兄ちゃんと次いつ会える?』と聞いてきた。
そんな美知に僕は勇気を振り絞り、久しぶりに会った時に交換した連絡先をアドレス帳から取り出し、柳瀬川くんに連絡をとった。
一応事情を説明し、「また美知と会ってくれないか」と聞くと、悩む事もなく柳瀬川くんは「構わない」と言ってくれた。
それからはお互い都合が良い日に度々会うようになり、我が家へ柳瀬川くんが遊びに来てくれたり、外へ3人で遊びに行ったりもしている。
正直、美知が柳瀬川くんに会いたいというのを口実に、僕自身、柳瀬川くんに会っている節はある。
諦めよう諦めよう思いながらも、いざ柳瀬川くんを前にすると嬉しくて楽しくて、何もかも忘れてしまう。
その『嬉しくて楽しくて』が友情故なのかと聞かれると自信を持って僕は頷くことはできない。
必死に友情からだと自分には言い聞かせているが、その感情の中には、少なからず高校時代に捨てたはずの気持ちまでも含まれてしまっている。




「悠お兄ちゃーん!!!!」
「美知ちゃんおはよ」
「おはよ、悠お兄ちゃん」
「はぁはぁ……美知走るの早いよ!…柳瀬川くん、遅くなってごめんね…」
途中まで手を繋いでいた美知は待ち合わせ場所の前で立っている柳瀬川くんを見付けた瞬間、繋いでいた僕の手を離し、一直線に柳瀬川くんの元へ走り出してしまった。
ようやく僕も美知に遅れを取りながらも2人の元に着いた時には、年のせいか、ゼェーハァーと息が上がっていた。

「雪下もおはよ」
「おはよう…柳瀬川くん。今日は誘ってくれてありがとうね」
「いえいえ」
美知を軽々と持ち上げ微笑む柳瀬川くんに、僕は『ああ素敵だな』と思わず見とれてしまった。
ウチの美知も可愛いが、きっと柳瀬川くんの子どももすごく可愛いんだろうな。
柳瀬川くんって子ども好きだし、絶対良いお父さんになりそうだ。
あと柳瀬川くんのことだし、子煩悩になりそうだなとふふふと笑っていると、チラッと僕を見た柳瀬川くんに『何か俺変なところある?』と不思議そうに聞かれ、『んーん。なんでもない』と返し、柳瀬川くんの車へと僕達は向かった。




夢の国へと着いた瞬間美知は「すごいすごーい」と言いながら僕の手を引っ張った。

「そっかー美知は初めてだったね。僕は昔1度だけ美希ちゃんに連れて来られた事あるから2度目だけど、やっぱりすごいね」
こちらを見てニコニコする美知に笑顔で返すと、今度は反対の手で繋いでる柳瀬川くんに美知は目を向け、「悠お兄ちゃんは来たことある?」と聞き、僕は無意識にゴクリと喉を鳴らした。

「いやー、俺も美知ちゃんと同じで初めてだよ。すごく大きいね」
「ね!!」と返す美知と同様に、柳瀬川くんはニコニコと笑った。



「無理無理無理無理!!!!2人だけで行ってきなよ」

初めはキャラクター達と一緒に写真を撮ったり、ゆるーい乗り物に乗ったり、夢の国限定のフードを食べたりと満喫していたが、美知が突然「あれ乗りたい」とフリーフォール形式のタワーを指差した。
それに対して柳瀬川くんは「俺はいいけど美知ちゃん大丈夫?乗れる?」と聞き、「うん」と返した美知に「じゃあ行こっか」と歩き出したが、僕はピタリと止まり、足を動かさなかった。

「…?パパ?どうしたの?」
「雪下?」
「…」
「?」
「…もしかして雪下、絶叫系苦手?」
俯く僕に柳瀬川くんは察してくれたのか、そう聞いてきた。
小刻みに頷いた後、おずおずと顔を上げると、美知と柳瀬川くんはニターと同じような顔をして笑っていた。

「無理無理無理無理!!!!」
「パパ駄目だよ?美知だって乗れるんだから、大人のパパも一緒に乗らなきゃ」
「そーだぞ雪下。美知ちゃんが乗れて雪下が乗らない訳ないだろ?」
左手を美知、右手を柳瀬川くんに引っ張られながら、恐怖のタワーへと僕は無理矢理連れて行かれた。



「途中怖かったけど、パークが全部見えて楽しかった。あと、すごく面白かった!!!!」
「また乗ってもいいかもな」
「……」
アトラクションまでの中間地点で、薄暗い部屋に入れられ、そこでタワーの説明を聞いた。
音や映像など、紛い物だとわかっていてもとても怖く、僕と美知は驚いて柳瀬川くんに抱きついてしまった。
薄暗い部屋から出た後も先程の余韻が残り、その上もう少しでアトラクションについてしまうということにビクビクしていると、美知と柳瀬川くんに笑われた。

とうとう順番になり、席に着いてシートベルトなど安全確認をした後、直ぐにアトラクションは動き出した。
動きだした瞬間、僕は本気で死を覚悟した。

最後に見た景色は雲一つない青空で、それはとてもとても綺麗だった。

「おーい、大丈夫か?雪下?」
「もう無理…」
「パパったら情けなーい」
「美知ぃ…!」




夜空を彩る花火に今日1日を振り返る。
今日は本当に楽しかった。

眠っている美知を柳瀬川くんがおんぶしてくれてるのを申し訳なく思い
「ごめんね…。僕が背負うよ」と謝ると、「平気平気。美知ちゃん軽いから。それに、雪下も抱っこできるくらい余裕あるし」と冗談を言われた。


「ありがとうね。本当に…美知もすごい楽しそうだったよ」
「それならよかった」
後部座席に美知を寝かせ、僕は柳瀬川くんの隣に座った。
動きだして数十分経った静かな車の中、遊び疲れたせいかウトウトし始めた頃、柳瀬川くんは前を向いたままゆっくりと喋り出した。

「俺な、…実はゲイなんだ」
「…え?」
さっきまでの眠気は吹き飛び、驚く僕にチラッと目線だけ僕に向け、また直ぐに柳瀬川くんは前へと向きなおった。

「まぁなんていうか…正直こんなこと、一生出来ないなって諦めてた…」
女の人を好きになれない時点で、子どもとこうやって遊んだりすることは絶対出来ないってずっと思ってた。
だけど叶うはずがない夢が、雪下のおかげで叶うことができたんだ…
だから本当にありがとう。

「今だから言うけど、高2の終わり頃に雪下に告白された時、本当はすごく嬉しかったんだ。
だけど雪下が環境に流されて、俺みたいに男が好きってわけじゃないのに未来の可能性を失うことが怖かったんだ。
だから身勝手な理由で、酷い言い方して振ったこと、ずっと後悔してた。
でも数年振りに再会した時、雪下には既に大きな子どもがいて、そりゃ最初は驚いたけど、俺の考えは間違ってなかったんだなって思えて嬉しかった」

「やっぱり、雪下のあの感情は環境のせいだったんだって…
俺は間違って無かったんだって…
ようやく俺は前に進むことができるよ」


その時僕は、返事を聞こうとはせず、ただただ静かに語る柳瀬川くんに、何も言うことができなかった。




そしてその日を境に、柳瀬川くんとは、音信不通になってしまった。







補足

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