短編2 | ナノ


▼ プロポーズされたら……

カタカタとキーボードを打ち込んでいると、後ろにいる女性社員達の会話が耳に入ってきた。

「経理の上田さん、来月結婚するんだって」
「いいなー!うらやましい」
「あーあ、私も早く結婚してさっさと仕事辞めたいなぁ」
思わず手が止まってしまった。
結婚か……。

結婚する意味とは何なんだろうか。
手が勝手に『結婚 意味』と調べ始めていた。

『世間体のため』『家のため』『将来のため』『孤独を埋めるため』
はぁ……と無意識にため息が出た。


僕は昨日、同性の恋人?にプロポーズされた。







高校時代からの同級生である野々倉(ののくら)とは大学入学を機に同居し始めた。
仲の良い友達同士だったわけじゃないが、お互い県外の大学で一人暮らしをしなきゃいけないという状況で、少しでも負担を減らすための利害の一致で同居を始めた。
友達ですらないただの同級生との同居に最初は不安もあったが、思いの外野々倉は僕と合っていたようで住みやすかった。

料理、ゴミ捨てが野々倉。
洗濯、掃除が僕と役割分担をし、何かあった時は必ず連絡を取り合った。

そんな同居生活が少し変わったのが大学2年の冬。
その日は2人で鍋パーティーを行い、2人とも酒を飲みまくった。
お互い酔っ払い、思考がふわふわしている中野々倉の恋人の話になった。
どうやら入学してすぐに付き合いだした彼女と最近別れてしまったらしく、それについて詳しく語ってくれた。

「俺はわかったよ。俺には恋人はいらない」
そう宣言する野々倉に酔っ払っていた僕は「じゃあこの先一生オナニーだけで生きて行くのかよ?」と下世話な質問をした。
「一夜を共にしてくれる人ならいくらでもいる。……けど、相手が本気になられたことを考えれば無理だし、そうなるかもな」
「ふーん。ならそのオナニー人生可哀想だし、少しは僕が手伝ってあげる」と言い、酔っ払った勢いで野々倉とヤッた。
それがまたまた思いの外よく、次の日の朝目が覚めて『こういうのもありかもな』と2人ともなった。

大学を卒業し就職しても同居は続行され、お互い溜まった時に相手を誘って性を発散する。
何も困ったことがない充実した毎日。
そんな日々を過ごしている中、風呂上りテレビを見ていた僕に野々倉がプロポーズしてきた。
それも『結婚しようか』とだけ。
「とりあえず考えてみて」とさっさと野々倉は寝室に行ってしまい、残された僕は頭を抱えた。

『結婚とは何なんだ』
野々倉のことは好きだ。その好きだは実に穏やかで、気持ちのいいもの。
そして野々倉も僕のことが好きだ。そう実感できる。
正直、僕はこのまま野々倉と一緒にいたいと思っていた。
好きだし一緒にいて落ち着くし、とても楽しい。
野々倉以上に好きな女性や男性もできないとも思っている。
だからプロポーズ自体は嬉しいが、結婚する意味はあるのか?別にこのままでもいいと僕は思っていた。

男女の結婚なら子供や将来があるが、僕達には何もない。
子どもは好きで、自分の子供が欲しいとは思うが、それは野々倉と別れることを意味する。
そこまでして子どもが欲しいとは思わないし、子どもができないのは野々倉も一緒でお互い様だ。

両親だって世間体に関して迷惑をかけるだろうが、そこは僕の幸せのためにもなんとかしてほしい。
要は結婚してもしなくても僕は何も変わらない。
変わることといえば僕と野々倉が家族になるということだけ。

そう考えが行き着いた瞬間、ブワーッと鳥肌が立った。

『そうか結婚したら僕は野々倉と家族になれるのか……それはすごく嬉しい』

気が付けば就業時間になっており、急いで荷物をまとめた。
今にでもスキップしそうな足取りでコンビニへと向かい結婚雑誌を買って、今日もご飯の準備し僕を待ってくれているだろう野々倉との家へと帰った。







補足

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