短編2 | ナノ


▼ 先生×高校生

僕の家は小学校の真ん前にあり、日中家にいるといつも子どもたちの声が聞こえてくる。


小学校に通っていた時は目の前に学校があるので、時間ギリギリに家を出ても遅刻することはなく便利だと思っていたが、小学校卒業後は子どもの声をうるさいなと感じるようになった。
運動会での応援合戦の練習や音楽会の練習など、ありあまる元気な子どもたちの声は正直もう少しボリュームを落として欲しいと願うぐらいには大きい。
自分も同じく小学生の頃にやっていたことで、先生が『もっと声を出して!』という指導のもと頑張って声を出してるのは重々わかっている。
だけど声がうるさくてテスト勉強に集中できないのは近所迷惑と言ってもいいのではないか?



テスト期間が終わり、そのまま夏休みに入った高校生の僕より数日遅れて、小学校も夏休みに入ったようで、運動会の練習声は聞こえなくなった。
だけどその代わり、今度は夏休みの間開放されたプールではしゃぐ子ども達の声が毎日聞こえるようになった。

『きゃー!』
『おい何やってんだよー!』
『そこ!危ないからプールには飛び込まないように!』
「あーもう、うるさいなぁ!真面目に勉強やってるのに全然集中できない!」
今年受験生ということもあり、少しは勉強をしようと取り掛かっていたが、それを邪魔するかのように連日子ども達のうるさい声に集中力を削がれる。

「はぁ……もういいや」
日中に勉強するのが間違いで、夜にでもやればいいやと諦め、気分転換がてらうるささの根源を見に外へ出てみた。
けれどさっきまでクーラーの効いた涼しい部屋にいたせいもあって、外との温度差にクラクラした。
フェンス越しにプールではしゃぐ子ども達を見ながら『僕もプール入りたい……これって何歳まで入っていいんだっけ?』と真剣に考えていると、ポンポンと肩を叩かれた。

「君、さっきからボーッと子ども達見てるけど何してるのかな?」
「えっ?あっ、え?見てるだけですけど……」
振り返り相手を見ると、若いカッコイイ男の人が立っていた。
けれどその顔は不審がっており、驚きながらも返事をすると今度は眉をひそめた。
ようやく男の言わんとすることを理解し、慌てて弁解をした。

「あ!いや、あの子どもに対して性的興奮があるとかじゃなくて、ただ家があそこで子ども達の声がうるさいなぁって思ってて!そのせいで宿題にも集中できなくて、だから気分転換に外に出ただけで……」
「ははは、慌てすぎ。冗談だよ。ただ君ぐらいの年齢の子が小学校にいるのが珍しく声掛けてみただけだから」
「な、何なんですかもう……完全に不審者に間違われたと思った……」
ごめんごめんとくしゃくしゃと頭を撫でられた。
突然の行動にピシリと固まると数秒おいてから手が止まったが、次の瞬間には「〜〜っかわいい!!」と言いながらさらに頭を撫でられた。


やっと頭から手が離れ、おそるおそる顔を上げると男と目があった。
カッコイイ顔を惜しげもなく笑顔にさせ、爽やかさが滲み出ている。

「いきなり何するんですか!っていうかあなたこそ誰なんですか」
「スキンシップに慣れてない感じが可愛くて思わず……。俺?この学校の先生してる穗積一成(ほづみいっせい)」
「先生!?わっか。プールに来てる子どものお兄さんかと思ってた」
若くないって。26歳だし、君にとったらもうおっさんでしょ?と言うが、僕が小学校の時の先生、1番若くて30代後半だったから十分若い。
今はこんな若くてカッコイイ人が先生やってるのかと考えていると、「っで?君の名前は?」と聞かれた。

「伊志原奏(いしはらそう)……高3」
「そうくんね!覚えた」
まだ会って十数分しか経っていないのに、穗積さんの距離感がとてつもなく近いせいで、いつの間に中途半端だった敬語も完全にタメ語に変わり、体の力も抜けきっていた。
なんというか年上だし、先生なんだろうけど、そういう感覚を全く感じさせない。


「あっ、ほづみん!」
「ほんとだ!ほづみーん何やってんのー?」
突如フェンス越しに穗積さんの名前を叫ぶ声にそちらを向くと、ビキニを着た女子二人がこちらに手を振っていた。
どちらも発育が良く、小学生には見えない。

「えーと、斎藤と雪代?だよな。お前らもう遊んでるってことは夏休みの宿題は終わったんだろうなー」
「せいかーい!ほづみん記憶力いいねぇ」
「宿題って、まだ夏休み始まって1週間しか経ってないのにまだ終わるわけないじゃん」
「遊んでばっかいないで勉強もちゃんとしろよー」という穗積さんの声に二人は適当にはいはいと返事をし、再びプールへと戻ってしまった。

「今の子達小学生なの?最近の子は発育がすごいな」
「そうくんのロリコン!やっぱプール見に来た目的はそっちだったんだな」
「違う違う違う!ただ純粋な感想述べただけでしょ」
「ははは、ウケる」
ほんの少し前まで女子達には先生の顔を見せてたくせに、直ぐにその顔をスッと隠す。
なんてこの人は、人の調子を狂わせるのが上手いんだ。
僕はどちらかといえば人見知りする方で、初対面の人に対してこんなにも砕けた会話することなんてない。
それなのにこうも砕けてしまったのは穗積さんのせいだ。

「あの子達から『ほづみん』って言われてたね」
「そうくんも俺のことそう呼ぶ?」
「いや、あえて『先生』って呼ばせてもらおうかな」
「……っ」
「何?だめだった?」
一瞬穗積さんは目を見開いて唇を噛んだが、直ぐに悪戯っ子の笑顔に戻った。

「決してそうくんの先生ではないけど、まぁいいよ」
「なんかそう言われるとムカつくんだけど」
穗積さんと数秒間目が合ったが、何も言わず背中を向けられた。
なんだ?と考えてると、「今日暑いよなぁ。向こうのコンビニまで付き合ってくれればアイス奢るけど、いる?」と聞かれた。

「もちろん。暑さで死にそうだったし、タダアイスほど美味いものはないよ」
「……そうくん、ほんと最高」
「え?なに急に……」
「可愛いってこと」
前を歩き始めた穗積さんに駆け足でついていき、顔をうかがうと楽しそうに笑っていた。







補足

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