短編2 | ナノ


▼ 1番になりたい

「奏(かなで)、卒業おめでとう」
「芳樹(よしき)くんも卒業おめでとう」

明るく誰とだって仲良くなっちゃう芳樹くんとは違い、僕は人見知りな性格で結局この6年間、芳樹くん以外友達はできなかった。
だけど僕はそれでもいい。
だって芳樹くんがいつも一緒にいてくれるから。
芳樹くんが居ればそれでいい。

6年間は長いようで短く、僕達は来月で中学生になる。
これから先も、ずっとずっとずっと芳樹くんと居たいな。

「さっきから暗い顔して、どうしたんだよ奏?」
「んーん。ただこの先もずっと芳樹くんと友達でいたいなって…」
「何言ってんだよ、当たり前だろ?この先もずっと俺達は友達だ」
「…僕が1番?」
「ああ、1番だ!親友だからな」
嬉しい。
嬉しい。
嬉しい。





「ただい…」
「え?マジで?お前もサッカー部に入んの?俺も」
「じゃあ今日の体験入部一緒に行こうぜ」
トイレから帰ってくると芳樹くんは隣の席の人と話していた。
その姿に不安がよぎった。
だけど気にしない振りをして、今度は少し大きめに声を掛けると、「おかえり」と芳樹くんは僕の方を向いてくれた。

大丈夫。
大丈夫。
僕は芳樹くんの1番だ。






「これからは練習終わるの待たなくていいから」
「えっ?」
「いっつも部活終わるまで待ってもらうの申し訳ないし、待たなくていいから。あと、朝練もこれから1人でいくから」
「いや、でも…」
「同じクラスだし、学校の中でだって話はできるだろ?」
芳樹くんが部活を始めてから、僕達には少しずつ距離ができはじめた。
それを埋めるため、僕は芳樹くんの朝練の時間に合わせて苦手な早起きをし、下校も芳樹くんの部活が終わるのを待った。
だってそうでもしないと、芳樹くんと一緒に居れる時間なんてなかったから。

中学校に入ってから、芳樹くんにはさらに友達ができた。
暗い性格の僕とは違い、明るい性格の芳樹くんはクラスの中心で、色んな人が芳樹くんの周りに集まってくる。
僕はいつも賑やかな輪の中心いる芳樹くんを見つめることしか出来ず、教室で芳樹くんと話せる時間はなくなった。

その上登下校までなくなったら、僕が芳樹くんと一緒に居れる時間なんてどこにも無い。





「明日、何する?」
芳樹くんの部活が休みの日を聞き、何週間も前からその日を楽しみにしていた。
やっと芳樹くんと一緒に居れる。
楽しみすぎて、芳樹くんに待つなと言われていたが、部活が終わるのを待った。
芳樹くんとその友達が見えてきて手を振ると、僕を見つけた芳樹くんは友達に何かを言い、走って僕のところへ来た。
驚いた顔だったが怒ってる様子もなく、久しぶりに一緒に帰った。
くだらない話で盛り上がり、やっぱり芳樹くんと居るのは楽しいなと再確認した。
そして本題である明日の話をすると、芳樹くんは目を丸くした。

「え?明日?何かあったっけ?」
「もぉ、忘れてたの?明日は遊ぼうって前から約束してたじゃん」
「そうだったっけか。悪い、悪い。…やばいな、明日部活の奴と遊ぶ約束しちまった」
僕が先だし、当然断ってくれるとそう思っていた。それなのに、

「まぁいっか。奏も明日、部活の奴との遊びに来いよ。いつも2人だけで遊ぶのもつまらないし、たまには大勢の方が楽しいだろ?」
「嫌だ…」
「嫌って……。ほら奏ってあんま友達いないみたいだし、これを機に増やしたらどうだ?」
「友達なんていらない……」
「……奏?」
「…僕は、2人きりで遊んでてつまらないなんて思ったこと、1度もないよ…それに大勢で遊びたくなんてない。芳樹くんが居ればそれでいい。僕はずっと芳樹くんの1番でいれれば、他の人なんていらないよ。芳樹くんも僕だけでいいよね」
「……ごめん。…それ、重い」
しごく迷惑そうな芳樹くんの顔。

僕の心臓は停止した。
僕は死んだ。

芳樹くんをおいて僕は走って家へと帰った。
家に帰り着き、ケータイを開くと芳樹くんからメールが来ていた。
だけど開かないまま、僕はメールを削除した。
次の日、ピンポーンと家のチャイムが鳴ったが耳を塞いで無視をした。

その日から僕は、ずっと家の中に閉じこもった。

両親も最初は学校に行かないことを咎めたり、たかが友達関係で不登校になることに文句を言っていた。
けれど芳樹くんの名を発すると途端に僕が耳を塞ぎ、「やめて、やめて」と言うからか、両親は芳樹くんの話題を口にしなくなった。






閉じこもってから2年の月日が経った頃、両親から高校のパンフレットを渡された。
私立の全寮制男子高校だった。
2年の月日の中で僕もこの先のことを何度も考えた。

芳樹くんが居なくても僕は生きなければならない。
芳樹くんに依存しきっていたせいで、芳樹くんからの1回の拒絶だけで僕は死んでしまった。
幼かった僕は芳樹くんの居ない生活なんて無理だと思っていたが、僕はこの2年間、芳樹くんに1度も会わなくて心は死んでいたが、実際は生きている。
芳樹くんが居なくても僕は生きていける。

不登校を受け入れてくれる高校を探すのだってきっと難しかっただろう。
あとは受験するだけというところまで準備をしてくれた両親に、僕は決心を固め、パンフレットを受け取った。






補足

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