互いのために | ナノ





アンケートで第二位だったのです。
そしてコメントでネタをいただいたので書いてしまいました!
こんなにシリアスにするつもりはなかったんですが…

※流血表現注意

















互いのために




























雨が降っていた。

その雨でできた足下の泥は赤が混じり、底無しの穴があるかのように黒い。

ナルトは暗い森の中で膝をつき、震える手をなんとか動かしていた。
































「降りだしたか…」

暗部の装束に身を包んだナルト…蒼波は自身の赤い髪にあたった水滴が落ちてきた空を見上げた。

「蒼波様、外套を。」

そう言ったのは同じように暗部の装束を着たシカマル…狩黒は黒い外套を蒼波に差し出した。

「ありがとう…すまんな、お前を駆り出すことになって。」
「お気になさらないでください。解部や策略部の長で在る前に、私は貴方の右腕ですから。」
「頼りにしてる。」

外套を着こみ、面の隙間からかすかにのぞく赤い瞳を合わせると、音もなく二人は走りだした。




















今日の任務は特SSよりも上の特殊ランク。
普通の暗部はおろか、各隊の隊長達でも危うすぎる任務だった。
相手の男は妖力を持つという刀の使い手で、刀を抜くと何かがのり移ったかのように闘うらしい。
そしてその刀の力は未知数で、確かな情報はない。
更に暗殺だけでなく相手が持つ密書も手に入れなければならないのだ。
暗殺だけであればまだ良いが、先に密書を手に入れるのは厄介だ。

その結果、里最強をほこる総隊長蒼波と、あまり現場へは出ないその右腕の狩黒が出ることとなった。

「目標は隠れていた街から、今日の夜中に出発するという情報です。」
「少し急げば先回りできるな…」

付いてこい、と言った瞬間蒼波はスピードをあげた。
一瞬その速さに怯んだが狩黒もすぐに後を追った。


























スッ


「!!」


「ここから先には行かせられない。」


雨が降りしきる中、目標である男の前に二人は音もなく姿を現した。

「ちっ!」

舌打ちをした後男は素早く印を組んだ。
男から炎の球が飛んでくる。
二人はいつもなら体を少しずらす程度で避けているが、今回は十分に距離をとって避ける。
避けた火の球の向こうから刀を抜き、瞳を充血させて狂ったような笑みをうかべた男が突っ込んできた。

(これが件の刀か…)

十分距離をとったおかげで、蒼波は突っ込んできた男の太刀筋を見ることができた。
暗い闇の中、雨が蒸発しているかのような青白い煙が刀を包んでいる。
そして刀を振るう男も、纏う空気が禍々しいものへと変わっていた。

蒼波は素早く印を組み、鋭い風の刃が男に向かう。
しかし男は刀を一振りし、風の刃を斬ってしまった。
手加減したとはいえ蒼波の術を、それも風を斬ってしまったのだ。
そして先ほどよりも刀の纏う嫌な気配が増したように感じる。

「あの刀…」
「間違いなく妖刀の類だろうな。」

ニヤニヤと笑っている男は蒼波をじっと見つめていた。

「なにやら匂うと思うた…」
「!」

呟いたかと思うと男は一瞬で間合いをつめ、蒼波に向かってきた。
狩黒が男の腕めがけてクナイを投げつけたが、男は気にもせずまた蒼波へと刃を向けてくる。

「ああ、やっぱりな!」
「……。」

キンッと高い音をたてて蒼波のクナイと男の刀が重なりあう。

「貴様から妖の匂いがするぞぉ」
「!?」

















「暗く濁った狐の匂いだ!」

















一瞬、蒼波の脳裏に己の身の内に封印されたものがよぎった。


その一瞬を男は見逃さず、刃は蒼波をとらえた。

























「ナルト!」























「…し、か…」

刀が触れる寸前、狩黒が蒼波の身体を引き寄せ、抱き込むように己の身体を盾にして庇った。
左の肩から腰まで狩黒の背中は大きく切られた。

「ご無事、ですか…蒼波様…」

痛みに耐える辛そうな声と共に狩黒の身体は蒼波へともたれ落ちた。
その身体からは無情なほど血が流れ落ちていく。
ただの刀傷よりも深く、傷口は赤黒く腫れていった。
蒼波は狩黒の身体をそっと木にもたれかかせ男を見る。
赤い瞳は何も映していないかのように暗く冷たかった。
男は刀を滴る血を見て狂った笑顔をうかべていた。


「くだらんなぁ…儂は貴様が切りたいのだ!そんなクズ一匹斬ろうがつまらんだけ!」

男は狩黒を一瞥し嘲笑った。
そしてすぐ蒼波を見つめる。




「儂は一度味わってみたかったのだ、同じ妖を、同胞を切る感触をっ…」





トサッ
ドシャッ







男の言葉はプツリと途切れた。

言葉を発し狂った瞳を持つ頭部は暗い泥へと堕ちたのだ。

そして頭を無くした男の身体は、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

蒼波の振るったチャクラ刀によって分断され泥に沈んだ男も、禍々しい刀も、もう何も言うことはない。

「……。」

蒼波は無言で男を燃やし、妖刀へ近づく。
そして禍々しい気を放つ刀を粉々に粉砕した。
ひとかけらも残らぬように。
完膚なきまでに砕け散った。
その瞳は何も映しはしない。























「…狩黒…っシカマル!」

ハッと我に帰ったナルトは変化を解きシカマルへと走り寄った。
シカマルも術は解け、本来の姿に戻っていた。
そっと面や外套を外してやると背中の傷が露わになった。

「シカ、シカマル…」

助けなければと手をかざすが、ブルブルと手がふるえる。

「シカ、マルが、いないと…!」

意識を集中させ医療忍術をかけていく。
だがふるえる手が邪魔をし、うまく治せなかった。

「…シカ、シカ、シカ…」

何度も名を呼びふるえる手を叱咤する。
いつもならもっと早く止血できるはずが、チャクラが乱れたり、情けない手のせいで力が定まらなかったりで、かなり時間がかかっていた。
そんな状況に心はどんどん不安に浸食されていく。
何とか止血ができてくると、閉じていた瞼が微かに動いた。

「…っぅ…」
「シカマル!」

うっすらと開いたシカマルの瞳は、雨粒で泣いているように見えるナルトをとらえた。

「…無事…だな…」
「喋るな!お前が、無事じゃ、ないんだぞ…自分の、心配を、しろ!」

ナルトは昔のたどたどしい言葉に戻ってしまっていた。

そんなナルトに小さく、本当に小さく笑い、シカマルはまた意識を手放した。

ナルトはその顔を見ると、意を決したように手に力をこめた。

(絶対に、助ける…!)

手のふるえはもう止まっていた。


























「……。」

重い瞼を開けると、愛しい金色が目に入った。

「シカマル…!」

顔を見やると、ナルトの顔は青白く悲しげな顔をしている。

「…ナル…ぐっ…」
「バカ、まだ動くな!」

手をのばそうと身体を動かすと、少しの衣擦れで背中に痛みがはしった。

「本当は家に連れていきたかったんだけど…傷が深かったからな、病院だ。」
「…そうか。」

表の影分身は自分が作ったというナルトの言葉を聞き、シカマルは窓に目をやった。

「あー…朝になっちまったか。」
「もうすぐ昼だ…ずっと、眠ってたんだぞ。」

そう言うとナルトは俯いてしまった。
膝を握る手はグッと力が込められている。



「…お前が目を覚まさないのが、本当に怖かった。」
「ああ、すまん。」
「頼むから…俺なんかを守るために、傷つくのはやめてくれ。」
「…そりゃあ無理だな。」

シカマルの言葉にナルトは俯いていた顔をあげた。
その顔は見てる方が悲痛に感じる程歪んでいた。

「俺は、お前が、いなきゃ、駄目なんだ…お前が、いなくなるなら、俺が、いなくなった方がいい!」
「…ナルト。」
「俺なんて、どうなったって、仕方ない、けど、お前は…」
「ナルト!」
「っ…。」

シカマルの大声と見つめる瞳にナルトは口を閉ざした。

「お前と俺の命に、優劣があるとでも思ってんのか。」
「俺は…」
「そんな卑下する言葉、二度と口にするな。」
「……。」

ナルトは視線に耐えられなくなり、また俯いてしまった。

「…なぁ、ナルト。」
「な、に?」
「俺もお前と一緒なんだ。」

身体をズラすだけでも痛むはずなのに、シカマルは腕をあげナルトの頬に手をそえた。
その手に驚いてナルトは顔上げた。

「俺も、お前がいないと駄目なんだよ。」
「シカマル…」
「お前が傷つく姿なんて、絶対見たくねぇ。そんな事になるんだったら命がけでも俺が守りたいって思う。」

勝手に身体が動いちまったんだ、とシカマルは苦笑した。
ナルトはその表情を見ると、ポロッと涙を落とした。
せき止められていたものが溢れる出すように。

「…俺も、シカマルが、傷つくの、なんて、見たく、ない。」
「あぁ。」
「シカマルが、一番、大切、なんだ。」
「俺もだよ。」
「…もう…傷つかないで…」

シカマルが傷を受けてからずっと堪えていたのだろう。
涙はとめどなく流れ、頬にそえられたシカマルの手も濡れていった。

「俺を守って怪我なんてしたら許さねぇからな。」
「……。」

黙るナルトにシカマルはため息をついた。

「俺は好きな奴を悲しませたくはねぇし、好きな奴にこれっぽっちも責任とか感じてほしくもねぇ。」

「…うん。」

「だから、これからはその原因になるものを俺が全力で潰す。お前が悲しむなら…お前が悲しまねぇためなら、絶対俺は生きのびる。俺を守る。」

「……シカマル。」

「だからお前も自分を守れ、守られろ。俺はお前が傷つくのはすげぇ辛いんだ…」

「…それ、なら、シカマルの、ために、俺も、絶対、生きのびる。」

「…ああ、お互いにな。」

シカマルが笑いかけると、ナルトはやっと笑顔をうかべた。
そして約束だ、としっかり手を握りあった。
























「で、任務はどうなった?」

「…つい密書も燃やしちゃったんだ。だから半分失敗になった…」

「なんだ、喋り方戻ったのか…昔のも可愛いのに。」

「し、シカマル!」

その後、病室には穏やかな笑い声が響いていた。































貴方が一番大切


大切な貴方が大切にしているものを


私も守るから


どうか私の大切なものも


守ってください


私のために
君のために


お互いのために


何にも代えられない


その存在を









end.

あー…戦闘(?)シーンなんて…というか意味不明な300%妄想の設定なんて…
辛かった(泣)
シリアスはお腹と頭が痛くなる。
うわぁ、暗っ!
難産だったのに決して内容は濃くないという悲しみ。
折角アンケートでご意見いただいたのに…
活かせない自分の文才に呆れます…


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