6章-3 | ナノ















三代目が火影室で一人、雨に目をやりながら座っていた。
ため息をこぼして目を雨から部屋へと戻すと、一人の暗部が膝まづいていた。

「あぁ、海怨(みえん)か。どうしたのじゃ。」
「…申し訳、ありません。」

何事かと三代目が先を促しても海怨は中々顔をあげなかった。

「…暗部総隊長の任を解いていただきたいのです。」
「なに?!お主は先日就任したばかりではないか…何があったのじゃ。」

海怨は三代目の疑問の声にも未だ顔を上げない。
数年前に暗部に入隊し、驚きの早さで暗部総隊長まで任された男。
つい先日、前総隊長の推薦で就任したばかりだったのだ。

「私の能力、人格ともに総隊長を任せていただくに値しません。」
「具体的な理由もなく辞めさせるわけにはいかぬぞ。」
「…私は…私は、うずまきナルトを殺そうとしました。」

三代目は目を見開き、息をのんだ。
暗部総隊長と呼ばれた男は、今日ナルトを部屋で襲ったあの男だった。
海怨はやっと顔をあげそこに立った。

「私はずっとうずまきナルトを…九尾を殺すために強くなろうと修行してきました。」
「……。」
「暗部総隊長の座に就き、うずまきナルトの監視役となり…殺す。それだけを目指し今日まで生きてきました。」
「ナルトは…どうした。」
「…生きております。」

三代目の静かだが刺すような殺気は海怨の返答を聞いて収まった。
ナルトの無事に安心し、今度はただじっと海怨を見つめた。


「返り討ちにでもあったか?」
「…いえ。」
「誰か助けでも入ったか?」
「…いえ。」
「何故、手にかけなかったのじゃ?」
「……。」
「…お主の九尾を憎む気持ちは解る。じゃが…」
「うずまきナルトは、九尾ではなかった。」

いつも三代目が言っていたことを海怨が先に口にした。
面で顔は見えないが海怨の拳は固く握られている。

「ずっと憎かった。あの時から…ただ孤独と憎しみを抱いて生きるしかなかったんです。」
「…うむ。」
「たくさんの人が死んだのに、九尾は生きている…だが生きているのにうずまきナルトからはまるで生を感じなかった。」
「……。」
「生に何も感じないあの姿が、それもまた腹立たしかった…ですが…」

今日海怨が見たナルトははっきりと瞳に生きる意志を示した。
九尾ではない、ただのうずまきナルトは普通の傷ついた少年だったのだ。

「うずまきナルトは、生きたいと言いました。」
「!」
「ずっと憎んでいた存在の姿ではなかったんです。」
「ナルトが…生きたいと…」
「はい。あれは…あの子は、ただの子供だと、わかりました。」

だから殺せませんでした、と言って海怨は黙って俯いた。
驚きに言葉がつまっていた三代目だがその瞳は優しいそれに変わり、椅子から立ち上がって海怨に近づいた。

「お主も辛い孤独に耐えてきた身じゃ…その殺意に気付いてやれんですまなかった。」
「…火影様の信頼を裏切り、申し訳ありません。」
「あぁ。じゃがお主はナルトをただの子供だと解ってくれたじゃろう。」
「…はい。」
「あやつも親の愛も知らず、感情や意思すら持てなかった子じゃ。」
「……。」
「だが、これから変われるやもしれん。それに手をかしてくれんか?」
「…私は…そんな立派な人間ではありません。」

三代目はフッと笑い、海怨の面に優しく手をかけた。

「暗部総隊長として、そして少しでも同じ痛みを知る一人の人間として、あの子の力になってやってくれ。」
「…三代目…」

「頼むぞ、イルカ。」

海怨から面がとられ、現れたのは顔の中央には横一文字にひかれた傷跡。
海野イルカは途切れない涙を流してそこにいた。














どうか




どうか




哀れな運命に




それを背負った子供に




希望の光を










光は今、動き始める





to be continued..




小説TOP
TOP