5章 | ナノ











5章










シカマルとナルトが出会ってから三日後。
連日ぐずついていた空はとうとう雨を降らせた。
ナルトは改めて買い出しにでかけた。
食糧は心もとなかったが、わざわざ雨が降るのを待っていたのだ。
雨の日は出歩いても傘で顔が隠れ、出歩いている里人も減る。
目をつけられないよう、ナルトは雨の日に出向くことが多かった。






なんとか買い物を終え、ナルトは帰路についていた。
その途中、ふと思い出したかのように足が止まった。

(……嬉しい、か。)

そこは三日前にナルトが大人達に襲われたところ。
そしてシカマルと出会った場所である。
ナルトはつい足を止めてその時のことを思い出していた。
初めて会話らしい会話をした子供。
面倒だといいながら世話をやいてくれた。
そして新しい感情を教えてくれた不思議な少年。
もし、いつかまた会うことになった時には言いたい事があった…。










「…っ。」

ナルトのそれまでの思考はかき消えた。
いつのまにか自分を囲むように大人達が立っていたのだ。
いつものナルトならばもっと前に気配に気づいていただろう。
だがナルトが自分で思っていたよりも、シカマルの事を考えるのに集中していたようだ。

「九尾のガキめっ!」

背後にいた男に背中を蹴られ、ナルトは前に倒れた。
瞳は暗い色を増し、結局は…というナルトの絶望を表したようだった。




























(…今日は…長い、な…)

今日の大人達はいつもよりも執拗だった。
泥にまみれているのはナルトだけでなく、大人達もだった。
雨は出かけたころよりも強さを増していた。
数えきれないほどの罵詈雑言と暴力。
だが気を失うほどの痛みは与えず、とことん苦しませようとしているようだった。
息苦しさや痛みが脳内を支配する中で聞こえてくるのは“化け物”という言葉。

(…やっぱり、俺は…)

自分を人間だと言ってくれた彼の言葉に、少しでも期待を持ったのがいけなかったのかもしれない。
いつかまた会える時がきたら…などと考えた自分が愚かだった。

(自分は“化け物”なのに…)

そういった暗く悲しい感情がナルトを支配していった。
絶望にのまれ、ナルトはもう痛みすらあまり感じなくなっていた。






(もう…いいか…)




























「…ナルト!」


















(……ナ、ルト……?)













沈みかけていた意識が引き止められた。

ナルトのことを名前で呼ぶものはほとんどいない。

ナルトは三代目以外の人間が自分の名前を呼ぶのを久々に聞いた。


自分を呼ぶ声


それは


子供の声






















「…奈良、シカマル…」

いつのまにか大人達はいなくなり、ナルトはシカマルに支えられていた。
膝をつき、ナルトの体を抱き止めるように支えているため、シカマルも雨にうたれてびしょ濡れだった。

「馬鹿、しゃべるな!意識は戻ったみてぇだな…」

何故、とナルトは疑問を口にしようとしたがシカマルに制された。
覗き込んでくる漆黒の双眸は心配のいろが見てとれる。

「…名前は親父に聞いた。」

ナルトの疑問を感じ取ったようにシカマルが答えた。
やはり良い頭をしている、とナルトは場違いな感心をしていた。

「俺が大声あげて来たもんだから、お前を殴ってた奴等は逃げってたぜ。」

それを聞き、ナルトはハッと目を見開いた。

「…俺なんかを!ゲホっ…お前が、庇ったりしたら…奈良家に、迷惑が、かかる…。」

きっと大人達はこの少年が旧家、奈良家縁の者だと気付いただろう。
だからこそさっさと逃げたのだ。
だが、それでは奈良家が俺に関わっていると思われるかもしれない。

「動くなっつの!あんなの見て素通りできるかよ、大人がガキを…!」
「…しょうが、ない…俺は…ただの、ガキじゃない…」

化け物なんだ。

そう口にしたナルトはあまりにも無表情で。
ナルトの顔に降ってくる雨の雫が、冷えきった涙のようだった。




「…俺はお前の事、名前しか知らねぇ。
そんで、俺の知らない“デカイ何か”が…お前にはあるんだろ。」

シカマルはナルトの暗く沈んだ瞳を見つめた。
まだ小さく、こんなに華奢な少年が何をしたのか。
暴力にも無抵抗で、表情を与えないほどにさせる“ソレ”は一体何なのか。
シカマルの瞳には困惑と悲しみと、怒りが混じり合っていた。



「そんでも、俺には…ただの傷ついたガキにしか見えねぇよ。」


(また、だ…)


またシカマルはナルトの中に不思議な感覚を与えた。
ナルトを見つめる漆黒の瞳は、気遣い、心配しているような視線で。
その存在を知らなくとも“九尾”ではなく、“ナルト”を見ていた。

(この感じは…)

ナルトが今胸中にある思いはこの前知ったばかり。
教えてくれたのは同じ人。

(あぁ、そうだ…俺は、言いたいことが…)

また、いつか会えた時に言おうと思っていたことがあった。
そして今がそれを言うのにふさわしい。
暗く沈んだナルトの瞳に意思が宿った。
その瞳は初めて真っすぐにシカマルの瞳を見つめていた。



























「………ありがとう。」


























生まれて初めて口にできた。

感謝の言葉を。








































そんな幼い二人を見つめる影が一つ。











to be continued..


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