4章 | ナノ











4章















シカマルの家から逃げるように家に着くと、ナルトは拾った食材を置いてきてしまった事に気がついた。
とにかく会ってはいけないのだという事で頭がいっぱいだったのだ。

「…奈良、か。」

とりあえず自分がいたことに気づいてないといい、そう願ったがすぐナルトはあの少年を思い出した。

(無理、だな。奈良の息子…あれは、他と違う感じが、する。)

例え気配を気付かれていなくとも、彼は、シカマルは親にきちんと説明できる。
普通のあれくらいの幼子なら中々言葉に的を得なかったり、突然消えた等と言ったら信じてもらえない。
だがシカマルは普通の子供とは違う。
あの年でしっかりと言葉を操り、理解している。
ナルトも大人と同格の思考や知力があるが、それは生い立ちのせい。
シカマルは環境がそうさせたとは思えない。
つまりは元々のシカマルの能力であるのだろう。

ふ、とナルトはそこまで考えて顔を上げた。

(……なんだ?)

「なんだか……よく、わからない…。」

初めてこんなに他人を考えている。
基本的にナルトにとって里人などどうでもいい。
いや、人だけでなく大体の事は興味がない。
それが今、ほんの少し時間を共にした少年の事を分析している。
ナルトには自分の中で疼く“何か”がわからなかった。
感情の言葉は知っていても、実際それがどんな感覚なのか知らないがゆえに、ナルトは初めての感覚に戸惑っていた。












「ナルト!どうしたんじゃ!?」
「…今日、奈良に、会うところだった…」

三代目の執務室に誰もいないのを見計らってナルトは現れた。

「奈良とは、奈良シカクか?何かあったのか?」
「奈良の息子に、会って、家に行った。奈良シカクが、帰ってくる前に、家を、出たが…」
「そうか…息子とはシカマルじゃの。じゃが、何故家にまで行ったのじゃ?」

ナルトが意味もなく人に関わることはない。
確かにナルトとシカマルは年も合うが、友人になったという事はほぼ確実にないだろう。

(友を持ってほしいが今はまだ無理じゃろうな。いつか…もっと感情を知ってくれたら…)

俯くナルトを見ながら三代目はあわい願いを持った。
しばらくして、ナルトはたどたどしく口を開いた。

「…怪我を、したところに、奈良シカマル、が通りかかったんだ…怪我を、治療する、と言われて…家に、連れて、行かれた。」
「怪我?!まさか…」

悲しいかな、三代目には聞かずともわかってしまった。
また里人に暴力をふるわれたのだろう。
俯くナルトを心配し、声をかけようと口を開くとナルトの言葉に遮られた。



「それから…よくわからない事が、あって。」
「…よくわからん事?」


それからナルトは帰ってからの事と、自分の中にある“何か”について話した。
三代目はジッとナルトを見つめた。


「…ナルト。」
「はい。」
「お主、シカマルに興味を持ったんではないか?」
「興味…は、多分、ある。」
「何故じゃろうな。」
「俺に、話し、かけてきて…自分から、世話してきた、から…」
「その時はどう思ったんじゃ?」
「……。何で、こんなこと、するんだと。」
「あとは?」
「よくわからなかった。」

三代目の心には淡い期待が顔をだしていた。

「“何か”とは…何かしらの感情ではないのか?」
「よくわからない…感情の、感覚がわからない。」
「お主が感じたことを言ってみなさい。」

ナルトはそう言われてやっと顔を上げた。
瞳には困惑の色が浮かんでいた。



「…今まで、感じたことが、ない。負の感覚では、なかった。」

「うむ。」

「少し、あったかかった。」

「ほう?」

「わからない、けど…敵意のない、雰囲気が、不思議で…気を、抜いてしまった。」

三代目は自然と微笑んでいた。
ナルトは三代目の笑みの理由が解らず、少し首を傾けた。


「“嬉しい”という気持ちを知っておるか?」

「…うれ、しい…」


言葉は知っている。
ただ、どんなものかは感じたことがなかったので、ナルトは首をふった。

「シカマルに世話をやいてもらって、敵意ではない感情を向けられて、嬉しかったんではないかのう?」

「…俺…嬉しかった、の、かな…」

トン、とナルト心臓のあたりに三代目は手をあてた。

「嬉しいとのぅ、このあたりが暖かくなったり、くすぐったくなったりするんじゃよ。」

「あったかい…」

ナルトは今日感じた不思議な感覚を思い返した。
自分に話しかけてきて、言葉を交わしても去らなかった少年。
自分をただのガキに見えると言っていた。
怪我を案じて世話をやいてくれた。




「俺、嬉しかった、かも、しれない。」




そう言うナルトの瞳は困惑の色が抜け、本来の美しい蒼が少しだが映っていた。
そうか、と頷く三代目は本当に嬉しそうな笑みをうかべていた。
これから変わっていくかもしれない、愛しい子の変化を見つめて。


















その日、ナルトは新しい感情を覚えた。













to be continued..


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