3章 家の前に着くとナルトはついてきたことを後悔した。 (・・・奈良家・・・) ついたのは木の葉の里の旧家として有名な奈良家だった。 薬の調合や知能の高さは折り紙つきで、里でもかなり重宝されている家の一つである。 そこを家とするこの少年は、つまり奈良家の者。 「ほら、入れよ。」 「・・・いや、帰る。奈良家の世話には、なれない。」 奈良家の現当主、奈良シカクは昔ナルトを護衛した一人だ。 今となっては基本的に接触は禁止されている。 「何言ってんだ、お前?」 「もう、傷も癒えてる。だから・・・」 帰ろうと踵を返したが少年に強引に手をひかれ、中へと入れられてしまった。 (何で俺はこんなとこにいるんだろう。) ナルトは家の中で少年の手当を受けていた。 といってもほとんど九尾の力で回復していたのだが。 「・・・んー、もう特に外傷はねぇな。」 「傷は・・・癒えていると、言っただろう。」 ナルトは初めて三代目以外の人間と会話をつづけていた。 ポツリポツリではあるが、会話として成立している事に不思議な感覚を覚えていた。 だが突然ナルトはハッと顔を上げた。 「・・・しまった・・・」 「おい待てよ、どうしたんだよ?」 立ち上がってそのまま帰ろうとするナルトを少年は静止した。 少年が見上げたナルトの瞳は、陰りを増しているようだった。 「俺は、奈良シカクに、会っては・・・いけない。」 「はぁ?なんだそりゃ・・てか親父の事知ってんのかよ。」 奈良シカクを父と呼んだ少年。 つまりこの黒目黒髪の少年は、奈良家当主の息子。 「奈良、シカマル・・・。」 「・・なんで俺の名前知ってんだよ。」 あぁ、親父知ってるからかと呟いた少年、シカマルの事を頭がよく働く奴だとナルトは思った。 考えてみれば同い年くらいの少年とこんなにも話が通じるのは不思議なこと。 少なくとも普通の幼い子供ではナルトの不可解な言葉の意味が解らず、早々に興味を失っていただろう。 今まで子供と話したことのないナルトにも、シカマルはどこか特別なのだろうとわかった。 シカマルに気をとられ、ナルトは家を出るのが遅れてしまった。 我に帰った時はもうシカクの気配がすぐそこまで来ていた。 シカクの妻、ヨシノの気配も共に近づいてくる。 「手間を、かけさせて、すまなかった・・・俺は・・もう行く。」 「あ、おい!お前・・・」 静止の声も空しく、ナルトは消えていた。 シカマルがキョロキョロと周囲を見渡していると、シカクとヨシノが玄関を開けた。 「帰ったぞー。」 「ただいまー、シカマルー?」 両親の声にそっけなく答えながら、シカマルは玄関に顔をだした。 「あら、何か探してるの?」 「いや・・・怪我してた奴を連れてきたんだけど・・・」 「まぁ!大変じゃないの!で、その子は?」 ヨシノの問いにシカマルは言葉をつまらせた。 シカクとヨシノは滅多にないシカマルの様子に首をかしげてしまう。 「・・・さっきまでいたんだけど、何か・・・消えちまった。」 「消えた?その子、名前は?」 「・・・聞こうとしたら消えちまったんだ。」 「は?なんだそりゃ?」 幽霊の類か?とシカクは笑ったが、シカマルが訝しげな視線を向けているのに気付いた。 「どうした?」 「怪我した奴がよ・・・親父に会ったらいけないんだって言ってたんだよ。」 「は?・・・っ!そいつ、どんな奴だった?!」 あまり見ない真面目な顔で問われシカマルは吃驚してしまった。 ヨシノも何か心当たりがあるのか、答えを待っているようだった。 「えっと・・・同い年くらいの男で、金髪に蒼い目してて、服とかボロボロだった。」 「・・・・・・。」 シカマルが答えると二人は悲しそうな顔をして俯いてしまった。 (親父達の知り合い・・・ってだけじゃねぇよな。) 大人に叱られる、人じゃないと言ったり、二人が近づいてるのに気付いた時の暗さを増した瞳。 あの子の普通と違う様子にはきっと大きな理由があるのだろうと、幼いその容姿には不釣り合いな頭は答えをだした。 (そんで、親父達は多少なりとも関係してるのか。) 「おい、シカマル。」 「・・・なんだよ。」 思考に沈んでいたシカマルが顔を上げると、真剣な顔をした両親がいた。 「そいつの名前は・・・うずまきナルト。」 「ナルト・・・。」 「あぁ。またナルトに何かあったら教えてくれ。」 シカマルの目線に合わせてシカクは屈み、目をしっかりと見つめた。 「あの子は悲しい運命の中にいるんだ。今はまだ、詳しい事は言えねぇが。」 「・・・うん。」 「周りが色々言う事もあるかもしれねぇ、でもお前は・・・」 ふと言葉を止めたシカクは少し優しげになっていた。 「お前はナルトを、ナルト自身を見てやってくれ。」 シカマルはただ頷くことしかできなかった。 あまり物事に興味を持たないシカマルは産まれて初めて、頭の中を満たすほど興味を持つ者に出会ったのだった。 こんなにも大きな出会いがあるなんて 誰も知らなかっただろう。 to be continued.. 小説TOPへ TOPへ |