嘘吐き
2011/01/10


金の為とはいえ、真冬に泊まる安宿は良いものではない。隙間風が容赦なく吹き抜け、久しぶりの風呂で温まってもすぐに指先まで冷えてしまう。そういう時は決まって自分の布団に相棒を取り込み動物のように丸まって寝ていた。今夜もそうしていたはずなのだが、さっきまであった温もりがないことに気付き、角都はまどろみから目覚める。隣を見れば上半身を起こし頭を抱えている相棒がそこにいた。暗闇に目が慣れず表情は窺えなかったが何故かあまり良い気がしなかったので声を掛けようと乾いた唇を動かす。しかしそれより先に、なァ、とひどく掠れた声で飛段の口が開いた。
「角都、いつかちゃんと殺してくれよ。オレの終わりをくれてやっても構わねーと思うのはてめーだけなんだからよ」
「……ああ」
根底でちりちりと燃える僅かな熱が再び芯を持ち始め、角都は躊躇いなく目の前の体に手を伸ばす。ビクリと反応した飛段をそのまま押し倒し、先ほどの行為でまだ濡れている柔らかい穴にそろりと指を滑らせ、自身を打ち込む。一瞬苦しげな表情をした飛段は、だが何も言わず角都を引き寄せた。黒い髪をぐしゃりと掻き交ぜられ、好きだ、お前が好きだ、と耳元で囁かれ角都はたまらず飛段の名を何度も何度も呼んだ。
「聞、こえてるぜ、角、都」
律動に合わせて飛段の腰が卑猥に揺れる。誘われるがままに動けばぐうと小さい喘ぎが荒い息の中に混じり、一つも逃すまいと角都はその唇にかぶりついた。すぐ近くで紫色が涙に滲んでいる。
「あァ、てめーのその目ん中で、死ねたらいいんだけど、よ」
恍惚とした表情でそう呟く飛段の反らされた首に顔を埋め、角都は一人ただ愕然とした。
(オレ達に終わりがあるのか)
汗ばんだ太腿がしなやかに曲げられ、低く唸るような声を出しながら飛段が達した。快感に震える背を抱き、角都は中のより深くに届くよう強く腰を押し付け精を吐き出し、その耳に願わくばと。
死ぬな、死ぬな飛段。初めからお前を殺す気などないオレの言葉を信じると言うのであれば、この淀んだ下らない世界で死に物狂いに生きてみせろ。そして欲張れ、オレと共に在りたいと。



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