恋をする
2011/03/05


贄に捧げた男をよくよく見ると左手の薬指に指輪をしていた。胸に刺したままだった仕込み杖を抜き飛段はその僅かな痛みに耐える。
恐怖に慄きながら女の名前を繰り返し呼び、すまないと涙を流しながら死んだこの男には帰る場所があり、きっとその帰りを待つ人がいたのだろう。
他人を贄としか認識しない飛段はその悲しみに浸りはしないが、つい無意識に角都に目をやった。
既に身支度を済ませた角都は賞金首を担ぎ歩き出している。そこから動けずにいた飛段は少しずつ遠くなる背中に身を震わせた。
目の前で倒れている男と自分を重ね合わせてみるが、きっと角都は自分の帰りを待つなんて事はしないだろう。あくまで自分達は暁という組織の中でコンビを組まされているだけだ。自分が暁に入った理由がどうあれ、それは角都に関係ないのだと飛段は先ほどとは違う痛みを訴える胸を抑えた。
「行くな」
思わず出た声にはっとしたが、それが自分にも聞こえないほどだったものに安堵した飛段は、しかしすぐに息を飲んだ。先に換金所へ向かっていると思っていた角都はその場で立ち止まり、じっと飛段を待っている。
「行くぞ、飛段」
いつもなら振り返りもしないくせに何でオレが本当に求めている時だけそうやってお前は、と飛段は唇を噛み締める。
「……待てよ、角都!」
今まで認めたくなかったのについに思い知らされてしまった。
飛段にとって角都が自分の帰る場所なのだと、そうして角都に未来永劫を期待していることを。



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