ドール
2011/01/10


オレの部屋、いや、正しくはオレの主人の部屋はここの所ひどく散らかっていた。普段は几帳面な性格の主人だが、今は乱れた黒い髪をガシガシと掻き上げ今日何度目か分からないでかい溜め息を吐いている。確か四日前は髪を塗って貰った。自慢の銀色だ。服は黒に赤い雲模様のコート。そして赤い三連鎌。日を増すごとに少しずつオレの世界は色付いていく。
窓の外が明るくなってきた頃、オレとの睨めっこに疲れた主人はそのまま机で寝ることもあった。それがやたら嬉しくて、普段しかめっ面しかしない主人の顔をマジマジと観察する。眉間のシワは更に深くなり、閉じた目の縁のまつ毛が動く。ピクリピクリ、と。

それを飽きることなくずっと見ていると、突然ガバッと身を起こした主人に出るはずもない声が出そうになった。背筋を冷たいものが走るが、ふとつるりと頬を撫でられ主人の武骨な指が筆を取る。迷いのないその動作にほんの少しだけ恐怖を覚える。いや、違う、オレはこの時が来るのをずっと待っていたはずなんだ。
「…飛段」
主人が何か言ったがオレはそれを理解出来ない。分かんねえと悲しんでいたら、今のはお前の名前だと言った。ああ、どうやらオレは飛段というらしい。
「飛段」
主人の目は不思議な色で、濃い赤と緑がじっとこっちを見ている。その中にいるオレは何とも言いがたい姿で立ち尽くしていて、体中のどこを探しても水分なんてないはずなのに妙に泣きたい気分になった。名前、というのは完成したものに付けるやつだ。他の奴らみたいにオレも綺麗に箱詰めされてきっとここには一生帰って来れない。今主人が満足気に塗ったオレの目は一体何色なんだろうか。
声が出せたら良かった、腕が動かせたら良かった、人形じゃなければ良かった。そうすれば。
「飛段」
どうしたよ、角都。
なんて返事も出来るのに。



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