神様の言う通り
2011/01/10


(そろそろ来る頃か)
予想を裏切らずに何かが割れた音と共に部屋に入って来たそれにペインは深く溜め息をついた。騒がしいのはいつものことだから今更気にはしないが毎回物を壊すのは止めてほしい。
「全くこんなに散らかして。小南に怒られるのはオレだぞ」
「うっせぇ!怒られちまえバカ!クソリーダーのバァーカ!」
「人に当たるな」
机に突っ伏している男は本当に成人を過ぎているのか疑うくらいひどく幼い。容姿ではなく頭が。粉々になった花瓶を片付け、ふと見ればコートから覗く腕に赤く線が引かれている。不死身なこの男の事だから気にしていないのだろうが、傷は案外深いものだった。ペインは奥の部屋から薬品が詰まれた箱を持ち出す。以前までなら埃まみれで存在すら忘れていたというのに最近では切れているものがないか心配するほどだ。
「ほら腕を出せ」
「…別にこんなんすぐ治るぜ」
「見ているオレが痛い」
「ハァ?」
不可解な顔をして自分を見上げる男にペインは再び溜め息をつく。一を聞いて十を知るという言葉すら教えなくてはならないこの馬鹿の連れにさすがに同情した。
「すぐに治るとしても痛みはあるだろう。堪え難いものだ」
「………てめーは優しいなァ」
「比べてくれるな」
心外の意味を込めて言えば、男の整った眉はへにょりと下がり焦ったように口をぱくぱくさせた。
「で、でも、あいつも優しくねーって訳じゃないんだぜ?」
「こんな事する奴を優しいとは言えないとオレは思うが」
うぐ、と唸った男は再び机に伏せそんな事言うなよと絞り出すように小さな声で呟いた。だがペインは知っている。あの男が実は優しいことも、この男に向けられるそれらは普通のものとは違うということも。ペインは包帯の巻かれた腕にそっと手を置いた。
「そう拗ねるな。お前が選んだ者だ、間違いなどないだろう」
「…おう」
ひどく愛おしいと思う。


「あんがとなァ」
「ああ」
一通り話をしてすっきりしたのか先ほどのような暗い目色はしていなかった。別れ際にぎゅうと首に抱き着かれたのでペインは遠慮なくその腰に腕を回す。コート越しの首に鼻先を埋め込めばふたつの匂いがしてあの男も同じ事をしているのかと思わず笑みがこぼれた。もちろんペインの気持ちとは別の物だが、少し嫉妬をする。
「ちゃんと仲直りをしろ」
「言われなくても分かってらァ」
下品な笑い声を上げながら去って行く姿にああいつも通りだと安心をした。馬鹿のくせに悩むなど珍しい事をするからだ。まああの男を相手にしているのだから分からなくもないが。
「…盗み聞きとは随分いい趣味を持っているようだな?」
「お前が聞かせたんだろう」
瞬身の術で扉の前から部屋の中へ移動した男は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。それにやたら腹が立ったので男の頬を思い切り殴る。避けないという事は初めから話を聞く気はないらしい。だがペインがそれを許す訳もなく倒れた男をさらに追い込んだ。
「アレを醜いと思うか?気味が悪いと蔑むか?不様だと笑うか?」
「いや」
ペインは男の胸を乱暴に踏み付けて畳み掛ける。
「そうだどれも否だろう。アレは心からお前を愛し欲しているというのに。全く健気なことだ、だがお前は振り返りもしない」
「知ったような口を」
「一体何を恐れている」
「……」
「素直に愛してしまえ、お前が危惧するような愚かな男ではない。オレが言うまでもないだろう」
翡翠の目が揺れ動く。ああ馬鹿なことだ、必要のないしがらみなど捨ててしまえばいいのに。
「共に堕ちろ、不死者ども」



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