06月24日(月)00時02分 の追記


大袈裟な足音が後ろから聞こえた。
誰が走ってきたかなんてすぐに分かった。
「白石!この後、明日の小テストの家庭教師して!」
くるりと振り返った俺の前には、お願いのポーズの謙也。
良く回る口で捲し立てている。
要するに前回の小テストの点数がいまいちだったから勉強を教えて欲しいらしい。
謙也は、俺の横にいる財前にからかいの言葉をもらい、律儀に返してはまた面白がられている。
俺は前回盗み見た謙也の小テストの点数を思い出していた。ふうん。
「ええよ」
「よっしゃ!おおきに。ほな帰ろ」
謙也に続いて部室を出る。
背中からはやる気のない「おっかれっしたー」
今は急いでるから、明日厳重注意やな。
ドアを出たところでオサムちゃんに声をかけられた。
「お前ら二人、ちょい付き合えや」
大きな段ボールを抱えている。面倒くさそう。
「あー…すまん俺ら……」
「すまん、オサムちゃん!俺らこれから勉強会やねん!学生の本分は勉強やで!」
謙也が声を張り上げた。
そしてオサムちゃんが何か言う前に、俺の手を取って、びゅん、と走り出してしまう。
そのまま俺の家に着くまで走った。
途中で速度を緩めてくれたけど、俺には結構きつかった。
すっかり息が上がってしまっている。

常温のミネラルウォーターを一気にあおる俺の横で、謙也は凍らせた梅をぼりぼりとかじっている。
「夏の白石んちの冷凍庫、俺、好き」
水道水で梅ジュースを作った謙也が、ごくごくと喉を鳴らす。
毎年夏になると母親が梅ジュースを作る。
その時の梅はジップロックに入れられ、冷凍庫にごろごろ凍らせてある。
謙也はそれをかじるのが好きだった。
俺は微妙。作った本人の母親も食べない。
うちでそれを消費するのは姉と他人の謙也だけだ。

「さて、勉強しますか?」
自分の部屋のソファに座った俺が言うと、謙也は黙って肩を押してきた。
仰向けになった俺の上に乗っかってくる。
その表情はいたずらを仕掛ける子どもみたいで。
あんまりエロくはないけどかわいい。
「勉強は?」
「白石、勉強したいん?」
「謙也は?小テストは大丈夫なん?」
「大丈夫」
きっぱりと答えた謙也が可笑しそうに笑う。
俺も笑った。

謙也の小テストの点数が悪かったはずがない。
俺はそれをちゃんと見て知っている。
謙也はこうして何かしら理由をつけて俺の家にやって来る。
俺にはバレバレの嘘。
周りには……、どうなんやろ?
いつも一緒にいる俺らが、それ以上に一緒にいたからといって、誰が疑うんだろう。まさか付き合ってるなんて。
どうやら謙也は俺らが付き合ってることを隠したいみたいだ。
俺はどっちでも良い。
謙也が隠したいならそうしようと思う。
こういうの、やたらめったら言いふらすもんじゃないっていうのも分かる。
でもバレたらバレたで別に構わない。
謙也が一緒なら何でも良い。
どうなったって。
お前が俺を好きでいてくれるなら。
何だってする。

一度、なんで隠すのか訊いたことがある。
「同じテニス部にホモが四人はまずいやろ」
そうかな。
俺はゲイじゃなくてバイだと思う。
謙也と付き合う前は女の子と付き合ったこともあった。
謙也を想う程じゃないけど、わりかし好きだったと思う。
謙也も以前はグラビアを見ては、どの子がかわいいとかおっぱいがデカイとか言っていた。
俺と付き合ってからは言わなくなった。
でも謙也は俺のことを初めて見た時から好きだったそうだ。
女の子だと勘違いしてたみたいだけど。
今はなき中一のかわいかった俺を。
総じて謙也もバイなはず。たぶん。
ユウジは置いておいて。
その相方はグレーゾーン。
演技の可能性が高いと見ている。
ということはテニス部にホモは一人。
何の問題もないやないか。
とは言わない。
謙也が隠したいならそうする。
そんなのが本当の理由だとも思っていない。
謙也の嘘ぐらいすぐ分かる。

謙也は俺の唇でむにむにと遊んでいる。
楽しそう。
俺も楽しいけど、ちょっと物足りない。
「謙也くーん……」
「なに?」
「そっひこそなにひてん……喋り辛いわ」
ばし、と謙也の手首を取ってやめさせる。
「唇のお勉強」
と言ってまたいじってくる。
俺はもう一度強く手首を取ると、楽しそうに笑っている唇を塞いだ。
二人きりで秘密を共有するのも悪くない。
何にせよ俺は謙也さえいれば良いのだ。
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