・ベンチに入れなかった桐青3年生の話
・架空の部員が出てきます
・夢小説ではありません


高校野球は残酷だ。

最後の夏だからって、必ずベンチに入れるわけじゃない。部員の多い少ないに関わらず20人までしかベンチに入ることが出来ない、そう規定で決まっている。

だから3年生になっても背番号をもらうことすら出来ず、スタンド応援で最後の大会を迎えるやつだって、決して少なくはない。まして部員の多い強豪校ならなおさらだ。

「以上。このメンバーで行く」

監督が県予選でベンチに入るメンバー20人の名前と背番号を読み上げ終わったこの瞬間。まだ梅雨も明けない、夏と呼ぶには早すぎる6月の中旬。俺の最後の夏は終わった。

その日の夜、両親から「どうだった?」と聞かれた。「だめだった」とだけ返した俺を父さんも母さんも責めやしなかった。けど、きっと内心がっかりしてた。口には出さなくても分かる。そりゃそうだよな、毎朝朝練に間に合うように弁当作ってくれたり、高い道具買ってもらったり、自分らの休み潰してまで協力してくれたのに。全部無駄だったって思うよな、本当にごめん。


次の日から、俺は選手として部活に参加できなくなった。

あいつらが練習してる間、ベンチに入れなかった俺たち3年生は、1・2年生に混じって応援練習したり、ノックを担当したり。当たり前にあった練習時間が、自分が上手くなるためのものじゃなくて、ベンチ入りしたやつのサポートをするためのものになった。最初は受け入れられなかった、というか今も受け入れられたわけではない。けど、こんなことを繰り返す内に嫌でも思い知らされる。「俺はもう試合に出られないんだ」と。

「お前の分まで頑張っから」

メンバー発表の後、泣き崩れてしまった俺に雅やんが言った言葉を思い出した。

「お前に何が分かんだよ」

なんて言いはしなかったけど、そう思ってしまった。

俺らがなんの為に今までやってきたと思ってんの?俺らは真剣に選手として入部して、大会に出たくて一生懸命毎日遅くまで練習してきたんだ。3年になってまでスタンドで応援する為に、マネージャーみたいなことやる為に野球部入ったんじゃねえんだよ。

ベンチに入れるお前に何がわかんの?お前が俺の分もとかいって一生懸命やってくれりゃ、俺もそこの舞台に立ったことになんの?俺の3年間は報われんの?そうじゃねーだろ?なあ

中学校のときはレギュラーで5番を打っていた。市の選抜チームにも選ばれたこともあった。だから、その辺の普通の部員よりも上手いのだという自負があった。入部したときはレギュラーをとれるだろうとも思ってた。レギュラーで、ずっと憧れてた甲子園に出るのだと信じて疑わなかった。けど、先輩達が卒業して2年生の秋になってレギュラーを掴んだのは雅やんだった。

いっそ、初戦あたりで負けてくれりゃいいのにな。

そんなことを考えながら打撃練習をしてる雅やん達を見つめる。別にレギュラーが嫌いってわけじゃない、実力も認めてる。けど、だからってハイそうですかで割り切れるほど大人にはなれなかった。いいよなお前らは最後まで野球が出来て。そこにいるのは俺だったかもしれないのに

「悔しいけどさ、一生懸命応援してあいつら勝たせてやろうぜ」

考えてることがあからさまに顔に出ていたのか、同じく3年でベンチ落ちした西野がそう声をかけてきた。「おう」と返事はしたものの目を見ることが出来なかった。なあ、なんでお前はそんなにすぐ割り切れんだよ。俺は、そんなに強くなれねーよ。


7月11日、県大会の初戦は新設の公立校だった

あーあ、こりゃ勝っちまうな。雨が降る前に決着着けばいいななんて思いながら、グラウンドを見つめる。対戦校は部員10人の公立校だ。うちみたいなとこと初戦であたるなんて可哀想になあ。でも、10人しかいないなら絶対ベンチに入れるんだよな。俺もそういうとこ行けばこんな惨めな思いしなくて済んだのかな。

なら最初から地元の公立に行きゃよかったんだ、強豪にきたのもそれでレギュラーとれなかったのも全部自分の選んだことだって分かってる。けど、それでも、あんだけ一生懸命練習して、その結果が3年生にもなって背番号のないユニホームを着てスタンド応援だっていう事実が惨めで、まだ受け入れられなくて、必死に逃げる理由を探してる。今の俺は多分すげーかっこ悪い。けど、他にどうしようもないだろ。


試合は相手のライトの好返球でタッチアウト、ゲームセット。5-4でうちの負け。その様を雨の中、まるで風邪をひいたみたいにひどくぼーっとする頭で眺めてた。

ずっと負けちまえって思った。俺を選ばなかったチームなんて、俺のいないチームなんて、初戦でボロクソにやられちまえばいいと思ってた。練習のサポートに回ってみたって、スタンドで精一杯応援する振りしてみたって、そこに立ちたかった。最後まで野球をしたかった。という煮え切らない思いがふつふつと沸いてきてずっと苦しかった。ベンチに入れないって言われたとき、お前の3年間にはなんの価値もありませんって、そう言われてるみたいで惨めだった。

やっと夏が終わってもう辛いだけの練習にもいかなくていい。こうなることをずっと望んでいたはずなのに、嬉しいはずなのに。なんで俺泣いてんだろう。なんで悔しいとか思ってんだろ。ああ、わけわかんねー。

スポット
ライトは
待っている

170801 強豪校のベンチに入れなかった部員の方々のことを考えてしまいます。

title : さよならの惑星



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