Novel - Vida | Kerry

レモネードと条約



「文化祭かぁ」
「可愛い子来るかな」
「女子と出会う貴重な機会だからな」
「決めた、俺髪切りに行くわ」
「バカ、坊主のくせにどこ切るんだよ」
「…お前ら手動かせよ」

 来週に迫った文化祭で野球部は毎年恒例の焼き鳥屋を出店することになった。けど準備が終わらない上に、放課後はクラスの出し物や展示の準備で忙しいやつが多いのでこうして昼休みも作業に追われてる。高校最後だし浮かれるのも分かるけど、腹減ったし早く進めようぜ。

「俺たちがこの文化祭にどれだけ懸けているのかなんて、可愛い彼女のいるヤノジュンには分からんだろう」
「悔しかったら独り身になってみろ」
「悪かったよ、頑張れよナンパ」
「なあ名前ちゃん文化祭来んの?」
「あ、それ俺も思った」
「来ねーよ。つーか呼ばねぇ」

 公と直正の問いにそう答えると、匠や誠たちに「何で呼ばないんだよ」「会わせろよ」と文句を言われた。けど、声かける気満々の野郎達だらけの状況に呼ぶわけねぇだろ。


「あのね、相談があるんだけど」
「ん、なに?」
「美丞の文化祭に行きたいなって思ってるんだけどダメかな?」
「ダメ」

 放課後、最寄駅で待ち合わせて通い慣れた道を帰る途中。急にそんなことを言い出した名前にダメだと返すと、驚いたような顔で俺を見上げてくる。
まさかダメと言われるとは思ってなかったみたいなリアクションだけど、文化祭とはいえ男子校のなかを彼女が出歩くなんてそんなの彼氏として許可できるわけがない。

「どうしてもダメ?」
「絶対ダメ」
「友達と一緒だよ?」
「うん、でもダメ」
「…はい」
「そんな顔すんなよ」

 口でははいと返事をしつつもあからさまに落ち込んだ顔をする名前の頭を撫でてやれば、さっきまでの表情から途端に嬉しそうな顔に変わる。

 別に文化祭に来てくれるのが嫌なわけじゃない。むしろ会いに来てくれんのは嬉しいけど、やっぱ危ないだろ。なんでダメって言ってるか分かってんのかな。

「うち男子校だから文化祭は女子と会えるチャンスとか言ってナンパみたいなことするやつら多いんだよ」
「え、そうなの?」
「そ。名前絶対声掛けられるし俺が見てないとこで危ない目に遭うかもしんないから言ってんの」

 そう言って名前の手を握る。すると名前は少し照れて、それでいて嬉しそうな顔で俺を見つめて笑う。そういう素直なところとか笑った顔とか可愛いと思う。

 だから余計に心配になるし、正直誰にも会わせたくない。お前の可愛いところ全部知ってるのはずっと、俺だけであってほしい。こんなこと考えてるような、余裕のないかっこ悪い男でごめん。

141021 高校のときの友人が、当時お付き合いしてた男子高の彼氏さんに「ナンパされるから文化祭来るな」って言われて結局行けなかったことを話してくれたのを思い出しました。
title : さよならの惑星


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