Novel - Vida | Kerry

飲み干してしまおう



※レモネードと条約の続き

 次の日、淳くんに言われたことを友達に話した。美丞の文化祭に行こうと最初に言い出した子はすごく残念そうな顔をしていたけど「他に美丞に知り合いいないし、名前の彼氏がダメならしょうがないね」ともう一人の子が言ってくれたので、今度の土曜日は友達3人で文化祭ではなく映画を観にいくことになった。

 今になって、淳くんは去年まで野球部の試合と重なったりして文化祭にちゃんと参加出来なかったと言っていたことを思い出した。それなら最初で最後の文化祭なんだもん、友達とか野球部のみんなと楽しく過ごして欲しい。野球部の人は応援に行っていた私の顔を知ってるから、淳くんからかわれちゃうかもしれないし。
 だから行かない方向に落ち着いて本当によかったな、なんて思ったのは木曜日の話。

 それなのに、私達は今美丞にいる。どうしてこんなことになってしまったのか、それは観ようとしてた映画の午前の回を逃してしまって、時間があまってしまった時の友達の一言だった。

「暇になっちゃったしさ、少しだけ美丞覗いてみない?」
「え、でも…」
「次の映画まで時間あるし、チラッと見て彼氏に会う前に帰ってこればいいじゃん!よし決まり」
「え、うそ、本当に?」

 なんとか行かないようにしたかったのに、結局流されるがまま美丞まで来てしまった。行きたいと言っていた子は楽しそうだし、今更帰ろうなんて言いにくい。なんでこんなことになっちゃったんだろう。
 淳くんが心配してくれてたことは友達といるから多分大丈夫だけど、からかわれて淳くんが楽しく過ごせなくなるのは嫌だなあ。どうか野球部の人に会いませんように、なるべく早く帰れますように。


「あれ名前ちゃんじゃね?」

 公が1階のホールを指差して俺にそう聞いてくる。いるはずねーと思うけど。と返しつつ、一応公が指差した方へ目をやる。吹き抜けになっているホールは俺らのいる2階からでも1階がよく見えて、その光景に驚いた。
 本当に名前だ。来るなって言ったのに。なんで一人でいんだ。来るなら連絡しろよって、そうじゃなくて

「あれ絡まれてね」
「公、ちょっとここ頼む」
「今度なんか奢れよ」

 持ち場を一旦公に任して急いで1階へ向かう。よく知らない同級生が話しかけてるのを少し聞きつつ、後ろから名前に声をかけた。

「何してんの?」
「淳くん!」
「え、矢野くん知り合い?」
「俺の彼女だけど」
「あ、そうなんだ、ごめんね」

 名前に声をかけていたやつがいなくなったのを見計らってあたらめて向かい合う。聞きたいことは山ほどあるけど、とりあえずなんともなさそうでほっと胸を撫で下ろす。

「ごめん!来るなって言われてたのに…」
「別にそれはいいよ。来てくれたのはうれしいし。でも一人は危ねえじゃん。誰か一緒いんの?」
「友達と一緒に来たんだけど今トイレいってて」
「ならいいけど」

 ごめんね、と謝る彼女の表情から本当に申し訳なく思っているのは伝わってくる。前にちらっと友達が美丞に行きたがってる話をしてたから、きっとここに来ることになったのもその友達のせいなんだろう。

 けどさっきから何か面白くない。ここにきてくれてること自体がじゃない。会えてうれしいのは本当だ。けどさっきからずっと頭から離れない、声をかけてた同級生と、困ったように眉を下げて笑う名前。

「さっきなんて声かけられてたの?」
「えっと、私がさっきの人の知り合いに似てて、間違えちゃったみたいで」
「何高?とか聞かれてたじゃん。ナンパだよあれ」

 "え、そうなの"とでも言いたげな驚いた表情を浮かべてる。間違えたとか話しかける口実に決まってんじゃん。警戒心が薄いというか、なんというか。そういう素直で優しいとこが長所ではあるんだけど。だからこそ心配になる。信用できないわけじゃなくて、いつかその優しさにつけ込まれんじゃないかって。

 彼女の友達が帰ってくるまで、そう自分の中で言い訳をして、ぶつけようのない感情を誤魔化すように手を取った。明日多分”学校でいちゃついてんなよ”っていじられんだろうけど。

 ちゃんと好きでいてくれてるってわかってるくせに、こんなことで妬くなんて自分でも子供じみてると思う。"男に絡まれてんの、嫌だった"なんて素直に言えるわけもなくて「気を付けろよ、本当に」と言うのがやっとだった。自分がこんなに嫉妬深いなんて気付かなきゃよかった。みっともねえよな、ほんと。

200713 続きがみたいとおっしゃっていただけたので、何年越しだよって感じですが書いてみました


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