Novel - Vida | Kerry

姉の特権



「姉ちゃんさ、彼氏からプレゼントもらうなら何がいい?」

 夕食後、リビングのソファで弟の公ちゃんとプリンを食べていたら急にそんなことを言い出すので驚いて、思わず公ちゃんの顔を凝視してしまう。
 あ、このプリンは学校帰りになぜか公ちゃんが買ってきてくれました。普段はこんなことしないのに、突然こんな可愛げのあることしてどうしたんだろうって思ってたけど、やっとわかった。理由なんてそれしかないじゃん。

「え、何?公ちゃん彼女できた?」
「…んなこと言ってねーじゃん。アレだよ、ヤノジュンがさ、彼女に何あげようか迷ってたから参考に聞いてやろうと思って」

 母が入浴中でリビングに私たちしかいないのをいいことに核心を突いてみる。「ほんとに俺じゃねーから!」と言って視線をそらして上手く取り繕ったつもりでいるんだろうけど、横顔からちらっと覗く耳が真っ赤に染まっているのでバレバレである。

 本人が意識してるかどうかは分からないけど、公ちゃんは私に何かお願いがあるとき必ず甘いものを買ってくる。から今回も何か頼みがあると見た。それがもし本当に矢野くんのことだったら、こんなこと聞くためにわざわざ自分のお小遣いからプリンなんか買ってこないでしょ。
 なんというか、普段は比較的要領がよくて器用にこなせるようにみえるのに、意外とごまかすのが下手というか、不器用というか。まったく可愛いやつめ。

「そうか、久々に公ちゃんに春が…」
「だから違げえっつってんじゃん」
「で、実際どうなの、彼女出来たんでしょ?付き合ってどのくらい?」

 少し間があって、観念したように真っ赤な耳をさらに赤くしながら小さく呟いた「3ヶ月」という言葉にこっちも思わず頬が緩んでしまう。聞けばお相手は矢野くんの彼女のお友達らしい。公ちゃんに彼女が出来るのは初めてじゃないし、中学のときもいたのに。なんでだろ、久々だからかな。なんだかすごく微笑ましい。

 かわいい?と聞くと照れながら「うん、まあ」なんて普段の様子からは想像も出来ないくらい優しい顔で言うので、聞いたこっちが恥ずかしくなってしまう。写真ないの?と聞いたらそろそろ本格的に恥ずかしくなったのか「姉ちゃんうぜー」と言われてそっぽ向いてしまった。なんだよ、みたかったのに。

 茶化しつつも実は、公ちゃんがあんな顔するなんて、正直びっくりしてる。小さい頃はそれはそれは可愛くて女の子によく間違われていたあの公ちゃんが。
高校は男子校に行くと言われたときはどうなることかと心配してたけど、そんなのどこ吹く風とでもいうようにどんどん成長して、いつのまにか小さい頃の公ちゃんではなく、ちゃんとたくましい男の子になっていた。そして遠からぬ将来大切な女の子をちゃんと幸せに出来るような立派な男になるんだろう。弟の成長がうれしくて、同時に少し寂しい気もするけど。

「今度の土曜一緒に買いもの行く?」
「行く」
「お昼は公ちゃんの奢りね」
「…800円までな」
「ケチ」
「プリン買ってきたんだからいーだろ」

 あ、やっぱりこのためにプリン買ってきたんだ。最初からそう言えばいいのに。素直じゃないなあ。しょうがない。土曜日は可愛い弟の幸せのために、お姉ちゃんが一肌脱いであげよう。きっとすごく迷って悩んで、真剣に選ぶんだろうな。彼女を思って公ちゃんが選んだものならきっと大丈夫、喜んでくれるよ。

 いつか、こういうのも私に頼らずとも自分一人で選べるようになってしまうんだろうけど。その頃には公ちゃんはこういう話をしてくれなくなるんだろうか。
それでも、そのときがくるまではこうして弟の恋愛を時に優しく、時に”うぜー”と言われつつ見守らせてもらおう。これが姉の特権というやつである。

 拝啓、まだ名前も知らない弟の恋人よ
 はじめまして、お元気ですか。
 公ちゃんはあなたのことが好きで好きでたまらないようです。うちの弟は見た目よりもずっと男っぽくて女心わかってなくて、不器用でちょっとガサツで素直じゃないけど、本当は優しくて一途ないいやつなんです。
 私のたった一人の大切な弟を、どうかこれからも末長くよろしくお願いします。

敬具

200707 5年ぶりくらいにまともな夢小説書いた気がする
川島家は姉弟仲良さそう。一緒に買い物行きそう。


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