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ヒロイン独白
平助一切無視(笑)
空から降り注ぐ陽光を一身に浴び、光り輝く花がある。
伸びやかで
鮮やかで
力強い。
目映い程の存在感を放つ花。そんな花がここにある。
大きく笑う
向日葵ひとつ
「千鶴、千鶴ー!」
バタバタと一際廊下に響く大きな足音。
淀みのない澄んだ声。
いつからだろう?
耳にするだけで、心が弾むようになったのは…
振り向けば、思った通りの笑顔がそこにはあって、息を弾ませながら、額にうっすらと汗を浮かべている。
「どうしたの?平助くん」
「へへっ。実はさ…」
得意満面の笑みで後ろ手に取り出したのは、小振りで綺麗な桃色の花。
「わ。可愛い!」
「だろ?ちょっとこの辺じゃ見掛けねぇよな。これ、千鶴にやるよ」
「え、いいの?」
「あぁ。つーか、お前に見せたくて摘んで来たんだし」
「平助くん…。ありがとう」
「え、ぁ、いや、別に…」
視線を逸らし、照れ臭そうに指先で頬を掻く。
そんな彼を見て、私の顔も自然と綻んだ。
いつもこうして、私を気遣ってくれる平助くん。
今でこそ、屯所内を出歩いたり、巡察にも同行させてもらえるようになったけど、少し前まではそれすらも禁止されていたし、父様の行方は依然として掴めていない。
そんな気が滅入りそうな生活をこれまで送ってこれたのは、紛れもなく彼のお陰だった。
含みも猜疑心もない人懐っこい笑顔。
他の隊士が、扱いに困る私に警戒心を見せる中、そんなものお構い無しとばかりに垣根を越えて向き合ってくれた。
【千鶴!】
【どうした?千鶴】
平助くんが呼ぶ声にはいつだって温もりが込められていて、その度に、揺らぐ自身の存在意義を支えられてるような気さえした。
「千鶴、これ一緒に食おうぜ!」
いつだったか、以前平助くんが羊羮を買ってきてくれたことがあった。
「平助くん、これ…結構したんじゃない?」
羊羮は高級菓子で、値もそれなりに張る。
「そんなの心配しなくても大丈夫だって。俺は八番組組長だぜ?給金だって、それなりに貰ってるっつーの」
あの時は、何てことないように笑い飛ばしていたけれど、のちに私は見掛けてしまう。
「何だよ、平助。最近、付き合い悪いじゃねーか」
「悪りぃな、新八っつぁん。今、金欠なんだ」
「ははーん。さては平助…お前、色街に好きな女でも出来たな?」
「は!?べ、別にそんなんじゃねーし!」
「いや、奥手なお前のことだから、こっそりと通い詰めて金でも使ってんだろ?お前なぁ、そんなんじゃいつまで経っても、女なんて口説き落とせねぇぞ?」
「だーかーらー、違うっつーの!新八っつぁんと一緒にすんなよな!」
【たまたま知り合いから貰ったんだ】
【こんなの大したことねーって】
いつもいつも「一緒に食べよう」と彼が手にしていた甘い菓子は、大事なお給金を削ってまで用意してくれたものだったのだ。
「いーんだよ、そんなこと気にしなくて。俺は呑みに行くより、こうしてお前と菓子食ってる方が楽しいし」
これ以上は申し訳なくて遠慮しても、彼は私の部屋へ通い続けた。
「はぁー…、やっぱ甘いもんって、幸せな気分になれるよなぁ」
のんびりと隣でお茶を啜る平助くんを眺めていると、胸がじんわりと温かくなった。
いつもありがとう。
平助くんがいたから、みんなとも少しずつ打ち解けることが出来て、私にとっても、ここが凄く大切な場所になって…
刀を向けられ怯えていたあの頃の私じゃ、想像も出来なかった。
【お前に泣き顔は似合わねぇって。ほら、笑ってろよ!】
【大丈夫だって!俺がついてっからさ】
大きく笑う向日葵は、溢れんばかりの目映さを振り撒いて、私が枯れてしまわぬよう元気を分けてくれる。
平助くんがいるから、先の見えない暗い道も怖くないよ。
数え切れないくらい貰った想いが私にはあるから。
優しさをありがとう。
勇気をありがとう。
強さをありがとう。
あなたが、私を大きく強くする。
私を照らす大輪の花。
20120915
御題:電子レンジ
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