※成長

「ねえ、良かったら一緒に走らない?」

同じくらいだった背丈も一、二年前くらいから金吾がぐんと伸び始めて、頭一つ分越してなおまだ伸び続けている。刀が身体に合わず、何だか不格好だった刀を振るう仕草も今は昔。だが刀を大事にするところは変わらない。泣き虫で甘えっこでどうしようも無い子供だった金吾は、目元のやさしいのだけを残してもう若い大人になった。親と子がするちゃんばらのようだった戸部先生との刀の特訓も、今は剣劇と言って良いほどに迫力のあるものになって、刀を握る時の目つきに昔の金吾はもう居ない。何故こんなに金吾の昔の話をするのだと聞かれたら、寂しいのであるといっそ答えてしまいたい程にはそれである。知ってか知らぬか珍しく久方振りに声をかけてきた金吾は、背中まで伸びた髪を揺らしてそう笑う。



「懐かしいね、昔を思い出すなあ」

何かを考えていたことに気付いた時には、もう既に山の中腹あたりに居た。情け無いが少し息が上がっている。少し、金吾が走るのはわたしが走るのよりペースが速い。うん。確実に。もしかしたら今金吾はわたしに合わせてくれているのかもしれないという事に考えついた時には情けなくて情けなくて走るのを止めてしまいたくなった。金吾の息が上がっているようには見えない。足がもつれそうだ。あんなに寂しい筈であったのに、今は、どうしてか、金吾と一緒に居たくない。

「‥金吾」
「ん、何?」
「あのさ、わたし、置いていっていいよ。‥‥」

心臓あたりがずんずん重くなって、そう言い切ったそれっきりで後はもう言葉に成らなかった。金吾の足は止まっている。じっとこちらを見た金吾に、何故だか恐怖にも似たものを抱いた。とっさに何か言おうとした唇が震える。近寄ってきた金吾に思わず片足が引いたのは何故だろうか。手を掴まれて、身体に小さな稲妻が落ちたようになる。金吾はじいっと目を合わせてくるのを止めない。顔が近い。あつい。視界が滲みそうになる。こわい。怒らないで。

「置いてなんか行かないよ」

金吾の形のいい唇が動く。ハッとして見た金吾の目元のやわらかいのが、固まった背中を少しほぐした。力が抜けてきたのに気付いたのか、金吾は笑んで、また同じように言う。

「置いてなんか行かない」

成る程。金吾もまた余程の暴君である。


120104

ずっとメモ帳にしまい込んであったものを。
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