バトルサブウェイという廃人施設の重い扉を押すのは最早日課になってしまったが、あなたは廃人ですかと問われればつい施設の中のソファーに腰を下ろしてボールを眺めて薄気味悪く笑んでいる人や、何やら呟きながら卵を抱えてうろうろと徘徊している人たちに目が行ってしまい、また何とも言えないのである。
入り口のひとつめのドアを抜けたその先に、地下へと繋がる前にまた一枚ガラス張りの扉がある。何時もは無い、その前に置かれた小さなテーブルとその上にある小瓶が気になって、扉を潜る前に瓶の中身を覗き込んだ。

「それは罅切れ防止のクリームで御座います」
「わっ!」
「これは唐突に失礼致しました。ノボリで御座います」

何時の間に立っていたのか瓶の置かれた向こう側に黒い車掌さん。もといサブウェイマスターの片割れであるノボリさんが立っていた。危うく瓶の蓋を落としかけて慌てて手のひらに力を込める。高そうな瓶だ。「ク、クリームですか‥」相槌をうちながら瓶の中を覗くと、ええ。と頷いてノボリさんは話を続ける。

「最近寒くなって来ましたから。施設内は年中常に一定の温度に設定されておりますので、なかなか外気との温度差が激しいので御座います。今日は特に冷え込んで御座いますから、わたくしとしてはクリームを塗ることを強くお薦め致します」
「はあ、じゃあ‥」

動く気配の無いノボリさんに見下ろされながら微妙な気分でクリームを手に擦り込んむ。ほんのりモモンの実の甘い香りがした。そうしてからさて行くかとドアに手を伸ばしたところでノボリさんに名前を呼ばれた。「お待ち下さい」

「え?‥‥」
「耳を塗り忘れておられます」

振り返ったところでノボリさんの指に耳を摘まれた。思わず固まったわたしなどお構い無しに耳をなぞられ数秒後。すっと離れた指にノボリさんが手慣れた様子でするりとシルクの手袋をはめているのに目が止まる。あれ、今、わたし。

「では、わたくしはこれで。トレインでお待ちしております」
「の、ノボリさん‥」
「はい?」
「み、耳‥‥」

数秒間の無表情のあと合点いったノボリさんがカッと顔を赤くした。無意識でしてたのかと熱い頬を感じつつ思って居るところに「つ、ついクダリが‥」と片割れのマスターの名前が聞こえて来て何とも言えない気持ちになるのであるが、これだけは言える。クダリさん本当ふざけんなごめんなさいありがとう。


日常による条件反射
111024
珠子さんリクエスト
(ノボリ/ポケットモンスター)

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