わたしがどんな思いで、どんな気持ちでこれを編んだのかはわたししか解りません。仲の悪いわたしたちを見てきた友人ですら、わたしが憎ましい気持ちで編んだと思うでしょう。ですから、きっとあなたがこの腹巻きを見て理解できる事は何ひとつ無いと思うのです。柄が奇抜で尚且つ綺麗に編んでいないのは、わたしがあなたを嫌いだからです。あなたがこれをしているのを、同僚に笑われればいいと思って編みました。ですから、これは絶対に肌身離さず身に付けて下さいね。わたしだと思って下さい。良い妻になれなかったわたしだと。その代わりにわたしはあなたから貰った安い変な柄の、悪趣味な着物をお隣の妙ちゃんと眺めながらあなたを思って笑います。ろくでもない旦那だったと笑います。ですから安心してお国のためにその命を捧げてしまいなさい。この手紙だって、読んだらすぐ捨ててしまいなさい。ところで今あなたはどちらに居られるのでしょう。もしかしたらもうお亡くなりになられてるかもしれませんね、というのは妻であるわたしが書いていいことなのかわたしには判断が出来ませんが、貴方が望むように命を使えたのならそれは何よりでしょう。警報が鳴っておりますので、そろそろ逃げる準備をせねばなりません。薄情かもしれませんが、この後生きている保証も出来ませんのでそろそろ手紙は終わりに致します。こちらに極秘任務を任され来ている猿飛さんに手紙を預けます。彼から受け取るとは思いますが、どうか沢山お礼を申してください。猿飛さんはお優しいかたですね。
たった今警報が解除されました。ですが、わたしも暇ではないのです。三軒お隣のみっちゃんのお家の畑作業のお手伝いが午後にあります。なので、やはりお手紙は終わりです。
最初の方にも申しましたが、わたしは貴方が嫌いです。ひといちばい怖がりで寂しがりのくせに、泣き言ひとつ言わず笑顔で去っていった貴方が嫌いです。ああいう笑顔は、帰ってきたときに取っておくべきではないでしょうか。貴方は生きることを諦めてはいませんか。諦め早いところもわたしは嫌いです。すがり付いてでも生きてください。帰ってきたときにあなたの泣き顔が見れることをわたしは楽しみにしております。それでは。どうかお元気で。



(アル婦人ノ手記。アル兵隊ノ着テイタ軍服ノ内右ポケットカラ発見サレタモノナリ)

130315
はちこりんリクエストの戦争パロディでした。リクエストありがとうございました!
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