最近暖かくなってきたせいか、授業中にもかかわらず眠くなってしまうのが、最近の大石の悩みだった。古文独特ののんびりした語り口やテンポが拍車をかける。黒板に書き写された竹取物語の一節の、うつくしが黄色い丸で囲まれる。それをノートに真似ながら、とにかく目を覚まさなくてはとかぶりを振って窓の外を見下ろした。モンシロチョウが中庭の花壇のまわりを飛んでいる。余計眠くなってきて仕方なく黒板に向き直りかけた、しかし、動きを止める。花壇の奥のベンチに、知った顔が座っていた。足元には毛足の長いたぬきのようなねこ。前屈みになって、ねこじゃらしであっちこっちに跳び回らせて遊んでいる。はっしとねこがうまく前足で捕えるとムキになって取り返して、けたけたと笑うのが大石のいる3階からでもよく見えた。





ようやく昼休みになり、菊丸の誘いを断って大石は中庭におりた。薄茶色の頭がふらふらしていないか探す。もういないだろうと思いながらも、もしかしたらとつい見に来てしまった。校内で彼女を見つけるのは至難の業だから。
円形の花壇の中にベンチは3つあり、こちらに背を向けたひとつに大石は目当てのものを見つけた。こくこくと船を漕いでいる。足音を立てないように近づいて回り込むと、器用にもあのねこをあぐらの上に乗せてぐっすり眠っていた。ねこの方が先に気づいて片目を開ける。通じるわけもないのについ人差し指を唇に当ててしーっ、とやってしまう。ねこはまた興味をなくしたのか目を閉じて太ももに頭を預けた。
ねこは居心地のいい場所を知っていると言うが、その通りなのかもしれない。そのベンチだけは中央の木にさえぎられることなく日の光を浴びている。しかし春とはいえ夕方には寒くなるにちがいない。大石はそっと学ランを脱いだ。




大石が身震いしたのを、相棒は見逃さなかった。


「あれ? なんだよ大石、寒いなら学ラン着りゃいーじゃん」
「いや、まあそうなんだけど」
「珍しいね、ワイシャツだなんて」


後ろから追いついてきた不二が笑う。気づかれているような気がして、大石はまた曖昧にはぐらかした。
階段を降りたところで、昇降口でなまえがねこを抱いたままきょろきょろしていた。思わず駆け寄ってしまう。


「なまえ!」


振り返った薄茶頭は、ほっとしたように笑ってねこを抱く手と逆の手で肩に羽織っていた学ランを脱いだ。


「これ、さんきゅ」
「あ、うん」
「それとこいつ、越前に」


学ランを着るのを待って、なまえはねこの脇を抱えて突き出した。ほぁら、とねこは不思議そうに見上げてくる。何が何だかわからないうちに、大石の腕の中でおとなしくするねこを満足そうになでて、なまえは片手を上げた。


「じゃあね、部活頑張って」


しばらくその背中を見送って振り向くと、ふわりおひさまとねこの匂いがした。





titled by 春と修羅




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