灰色にくすんだ冬の坂道を、防具袋のベルトを肩にたすき掛けしてしっかり3本収まった竹刀袋を大事に両手で抱え込みながら、一歩一歩コンクリートを確かめるように歩く。ぐっ、ぐっ、と肩に食い込むベルトがしびれるような痛みをもたらす、膝の裏では防具袋のはしっこの金具が容赦のない攻撃を仕掛けてくる。これだから、2つ買おうって言ったのに。冷たい風が吹き付けても、背骨の辺りから発せられる熱は冷めそうになくて、ちょっと汗まででてきた気がする。早くこないかな、と思いながら首を回すのも窮屈なので振り返ったりはしない。趣味の欄にはためらいなく昼寝って書くくせに、早朝稽古をさぼったりはしないあの男がいつもどおりなら、もう少しで。


「よォ」


来た。
おはよう!としんと張りつめた朝の空気に良く似合う元気な挨拶とさわやかな笑顔で、私は防具袋を肩から外してゾロに差し出した。はぁ、と真っ白な諦めのため息を煙草の煙のように吐き出した歩くマリモくんは私の手からそれを黙って受け取り、スポーツバッグか何かと勘違いしてるんじゃないかというくらいの気軽さで自分の肩に掛ける。憑き物が落ちたように身軽になった私は大きく伸びをして、竹刀袋を抱え直す。


「今日はえらい優しいじゃん」
「うるせェ」


さっさと歩き出すゾロの隣に小走りに並ぶと、歩調がいつもよりずっとゆっくりであることに気づく。昨日までなら私の徒歩最高速度の限界に挑戦させるくらい早歩きなのに、今日は私のペースだ。ちょっと、ほんとにどうしちゃったのこの子。まじまじとみていたらそっけなく、「ただの気まぐれだ」と言われてしまった。ふーん、とこっちも興味なさそうに返す。腕の中で、3本の竹刀同士がこすれ合うのを感じる。ほんとは2本でいいんだけど、必ず3本持ち歩くゾロの漂わせる雰囲気を真似してみたくなった私の竹刀袋にはぎゅうぎゅうに3本詰め込まれている。何も持たなくても、ゾロは立って歩くだけで道をあけたくなるような、こいつはできるぞって強者のオーラをむんむん発している。いや、やくざとかじゃないんだけど。いつからだったかなァ。使い込まれた竹刀に似たこいつの真似をするようになったのは。三本勝負で一本もとれなくなったのは。






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