「今日は悪かったな」


向かい合って座っている。
俺は泡盛のストレート片手になまえのつくった島らっきょうの天ぷらとゴーヤーチャンプルーを摘んでいた。机を挟んだ向こうのなまえはソーダとシークワーサーで割った泡盛に口をつけると、目を細める。


「いやあ小学校なんて10年以上前だったし」


なんつーか年とったなあと思ったよ。寂しさを匂わせつぶやくが、俺の半分をやっと越える程度の年だ、そうは言っても随分最近のことだろう。なにせ小学校なんて俺には四半世紀より前の話だ。そのころは錦も由美も親っさんもいて、上も下もなくて、欲しがることと失うことが表裏一体だなんて知らなかった。知らなくてもよかった。世界はもっと単純な構造で、それに伴って感情も随分シンプルだったのに。中途半端にグラスを握ったままの俺の手元に、なまえの視線が絡む。身じろぎもせずに、じっとがまん強く、俺が口火を切るのを待っている。でも何を語るべきなのか分からない。今口を開いたら、余計なことまでほろりと転がって行ってしまいそうで。


「…なんで、こうなっちまったんだろうな」


ああほらみろ。
それは後悔なんかであるはずもなく、ただ猛然と突き進んできたままのけもの道を振り返ったら、途方に暮れてしまっただけだ。幾多のわかれ道を、これが正しいと選んできたのに、今になってわからなくなった。取りこぼしたものは多いのに、手に残ったのはがらくただけのような気がして。けれどそれが、どうして正しく伝わる?
貝のように閉じた薄い唇は酒にしっとりと濡れて、開くつもりはないようだ。そうやって俺がまた言うつもりのなかったことをつい漏らしてしまうのを待っている。全部吐き出してしまうのを望んでいる。






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