ふと目を覚ますと、まだ新幹線の中だった。袖をまくりあげて腕時計を確認すると、到着まであと30分ほどしかないようで、もう一度眠るには中途半端だ。仕方なしに携帯を開くけれど、着信はない。そうやって一ヶ月の間ずっと、こっそりただ一人からの着信を待っている。会えなくてもいいし、電話じゃなくてもいい、メール一通でいいのだが、まるでそんな事実はなかったかのように、ぱったりと途絶えたままなのだ。


(飽きられた、かな)


そりゃそうだと自分でも思う。相手はまだ若くていろいろなことに興味をもつ年頃なのだ。棋士なんて地味な職業のおじさんなんて、一時の珍しさ以外に一緒にいる理由なんてない。そう言い聞かせても、どこまでも深い場所に突き落とされたような、足下に地面の確かさのない感覚を振り払うことができなかった。

いつからか年甲斐もなく一回りどころではなく年の差がある女の子に熱を上げていた。それでこんなに呆気なく振られているんじゃ笑い話にもならない。けれど引き止める権利はない。自分に対する評価を、俺は正しく理解しているつもりだ。宗谷や後藤とは違う、少なくとも女子高生にふさわしいとは思えないのだ。同い年で話題も合って、楽しませてやれるような、たとえば桐山のような奴ならば相応なのだろう。いい年したおっさんがたぶらかして、なまえの貴重な時期を食いつぶしてはいけない。俺は番号を呼び出しかけていた手を止めて、そっと電源ボタンに手をかけた。


(それでも、諦めきれないのが困るよなあ)






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -