「ところでさ、前から思ってたんだが」


この状況でにこにこにやにやする、頭のねじ数十本は間違いなく吹っ飛んでる社長は、私にしてはいけない質問第一位をなんのためらいもなく口にした。


「なーんかなまえちゃん、俺を避けてない?」


びしりと全身が凍結する音を聞いた気がした。なんでそれ聞いちゃうかね、あんたは。


「キノセイデスヨHAHAHA」
「HAHAHAって・・・。怪しいな〜。さては、図星か?」


ん?と、たとえその答えがイエスだったとしても、いやイエスだと分かってるようなのに、まるで鼻にもかけていない。あんたの、そういうところが。知らずに奥歯が擦れて嫌な音が口の中に反響した。


「そうですよ。避けてます避けまくってますこれで満足ですか」


ぎゅっ、とスーツの裾を握りつぶして振り返る。いやな薄笑いが止められない。社長の、面食らった顔が心地いい。そうやってだらしなく、仕事とか人間とか世の中のありとあらゆるものをおもちゃにしてるあんたなんかきらいだ、だいっきらいだ、だから、これ以上知ったような顔をしないで。私にだってあんたくらいから逃げ出す権利はあるんだ。


「あんたなんか、だいっきらいだ」


はっきりと口にしてみても、また軽いジョークでしょとへらへらされることは分かりきっていたから私は前を向いてもう一度非常ボタンを押した。強く、強く。何度も、何度も。私の言葉でどんなにあんたの外皮を叩いたところで柔らかい中身にはこれっぽっちも響いちゃくれない、とっくに知ってる。所詮こっちの考えなんかさんざんもてあそばれるのがオチで、私ばかり真剣で、そんな惨めなのはごめんだ。






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