「大袈裟でしょ、倒れたってゆーか立ち眩みだっての。なのに店長に慌てて病院連れてかれてさあ」

「大事じゃなかったんだから良いんじゃないの」

「今の時間のあたしの労働賃金はどうしてくれるのさ!」

大部屋のベッドに寝かせられた棗は、すごく不満な顔で溜め息を吐いた。最近、金金金としか言っていない。「この世は金なんだよ園、お金が無きゃ幸せになれない!」とこの間騒いでいたのを聞いた。多分彼氏と別れたのだろう。

緊急連絡先を園と桜にしている為、桜にも連絡がいくらしい。

園は立ち上がり、コートを羽織る。

「じゃあ、元気そうだし、帰る」

「はいはーい、良いお年を」

「死なずに年を越してね」

はいはーい、と軽く返事をした棗に背を向けて、病室を出た。





園は病院近くにある四十万谷の部屋に寄った。自分の家に帰るよりこっちに行った方が近いと思った結果。

事前に行くと言ったけど、インターホンを鳴らしても出てこない。何度も押したらお隣に迷惑かもしれない、と考えてドアノブに手をかけた。

まさか、と思ったが開いた。なんて不用心…。そう思いながらも普通に扉を開いて中に入った。

「お邪魔します」

その言葉に返ってくる言葉は無いが、靴はある。

死んでいるのかもしれない。

冷静にそんなことを思った園は、玄関近くの寝室の扉を開けた。寝息が聞こえて、寝ているだけか、と溜め息を吐いた。

真ん中で眠っている四十万谷を園は背中で押して端に寄らせる。

「うわ、なに」

落ちる寸前だった四十万谷は、むくりと起き上がった。舌足らずな声で反抗の声を上げる。

「携帯鳴ってるよおにーさん」

「あ、ども」

まだ頭が回っていないのか、敬語で返した四十万谷は近くに放ってあった携帯を手にとる。

「もしもし」

電話相手も見ずに、掠れた声を出した。

『もしもーし、四十万谷クン。隣にいるのは霧島以外の女ですかー』

目を細めて、薄暗い空間で四十万谷を見る。
電話の向こうにいるのが久保屋史岐だとすぐに分かった。

「違います、断じて違うので睨むな霧島」

『うわあ、うざ。リア充爆破したい。ねー俺の独り言聞いてくれる?』

「久保屋史岐…荒れてるな」

四十万谷の言葉を聞きながら園は目を瞑った。
男二人の会話に端から突っ込もうとも思わない。

意識を遠くしていると、「霧島は、さっき八重樫の所行って帰ってきたばっかだけど」と声が聞こえて目を開く。

そして、四十万谷に背を向けて静かにメールを打った。

「…決めつけるのはどーかと思う」

『拗ねてないし。恋愛に発展するわけねーし』

「なんで」

四十万谷は半分ベッドを占領されつつ、その上で胡座をかく。暗闇に目が慣れて、園がぼんやりと天井を見ているのが分かった。

『例え俺に対しての潮の認識が友達だとしても、八重樫とは比べものにならない。ミジンコレベル。そんなのが恋愛に発展すると思う?思わない、何より恋愛出来るなんて思えない』

久保屋史岐の桜に対する気持ちが吐露された。
園の口元が嘲笑うようにつり上がる。

それを四十万谷は見逃さなかった。

『もし友情より恋愛を大事にしてるとしても、俺は到底及ばないわけだ』

言い終わると共に、う゛っという呻き声も聞こえた。なんだ、どうした?と聞いても返事が無い。

『そんなこと、無いんだけどなあ』

桜の声が、電話越しに聞こえた。ブツリと電話が切れた音。

誰とも繋がっていない携帯を見てから、園を見る。未だ寝転がったまま。

「霧島、なんかしたか?」

園は背中を向けた。

「さあ?」

「久保屋史岐が困ってた」

「久保屋史岐には同族嫌悪を感じる」

フローリングに落とした携帯のディスプレイに表示された送信メールの文面は“棗は元気だった。久保屋史岐が桜に渡すものがあるらしいけど”

ずるずると園は起き上がった。転がった携帯を見つめる。

「本当、似てるよ」

「うわあ、うざ」

「ほらな」

「今のは真似したの。そこら辺見分けて欲しいものなんだけど」

「はいはい」

園は四十万谷の方を向いた。

真っ直ぐ園を見ていた四十万谷に、一瞬怯む。いつからこちらを向いていたのだろう。

「あたし、謝らないから。悪いことしてないし反省する気もない。何があっても桜の味方」

「だったら、俺の気持ちも理解出来るか?」

「…理解出来るけど、分かりたくない」

「別にいいけど、おねーさん。俺はお前がさっきみたいに笑うのはあんま好きじゃない」

断言する。四十万谷は内心、怯えていたが。

「本心は違うにしろ、無意識にそう歪むのは良くない」

「…じゃあもっと信じろって言ってよ。あんたのその友人とやらに。
桜のこと好きならちゃんと信じろって。信じてから思いっきりフられれば良いんだばーか」

つーん、とそっぽを向いた園。その肩を今度こそは躊躇いなく、抱き寄せた。





「あー同族嫌悪?俺も感じる」

久保屋史岐はマフラーに顎を埋めた。

「やっぱり似てるよ、お前等」

「は?似てんのはお前等二人の方でしょ。同族だっていうのは認めるけど」

サンドイッチを手にとった四十万谷は「似てる?」と聞き返す。

久保屋史岐はペットボトルを何本か籠に放り込んで、それからおにぎりのコーナーへ行く。

五人でピクニックに来たは良いが、誰も食べ物を持ってきていないことが判明した。棗が壱万円札をひらつかせ、男が買い出しに行くことが決められた。

「今度気をつけて見てみ。前やんなかったのに同じことしてる時あるから」

「…そうする」

「あと、霧島に今回は助かったって言っといて」


園の行動は、良い方向へ転んだらしい。





















長く一緒に居ると、自然と似てくる。兄弟にもそれって見られるなあ。そしてヘタレ四十万谷くんがとても好き。それより園ちゃんが好きだけど。

これらはあくまでパラレルです。










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