───ああいう奴とまた同じクラスとか、最悪。



暗い廊下。
自動販売機の白い灯り。
一人だけの足音。

部活終わりに、教室に寄る。机の中に古典のプリントを忘れてきてしまった。

蛍光灯を点けなくとも最初から点いているのが外から見えた。最後に出た誰かが、消さずに出て行ったんだろうと考える。

そんなことを思いながら教室に入ると、予想外なことに人が居た。驚いて凝視していると、彼も驚いたようにこっちを見た。

気まずく思ったのか、携帯とエナメルバックを持ちながら反対側の出口に向かおうとする。

けれど鍵が閉まっていたみたいで、仕方なくこっちへ歩いてきた。

あたしは有無を言わず、扉の前で歩みを止めた。彼と対峙する。サッカー部の彼と。


「そこ…。」

「あのね、卑怯だと思うの。」


あたしは右脚重心にする。スクールバックの柄の部分をかけた両肩から右肩に負担が大きくなる。

言った言葉の意味が、どれほど彼に伝わったのかはわからない。それくらい、彼は表情を変えなかった。


「え?」

「名城のこと、サッカー部の皆サンで悪く言ったりするの。すごく卑怯。」

「あー…。」


昼休み、教室でお昼ご飯を食べていたあたしの耳に聞こえたもの。いくつかのエピソードと、下品な笑い方。
本人が居ないから大丈夫だとでも思ったのか。

確かに、名城はあまり話さない。吹奏楽部だし、何考えてるか分からないかもしれない。


「聞こえてた?」

「聞かれたくないなら、誰も居ない所で喋るべきだよ?」

「幼なじみだからって、別に星屋が言いに来なくても。」

「そういうの関係なく、あたしは腹が立ってるんだけど?」


そう、あたしは腹が立っている。明日からの教室での生活を捨てても良いと思うほど。
腹の中が煮えくり返っている。

大半の人間にはくだらないことだの、気にしなくて良いことだの思うかもしれない。

でもそれは客観視。


「君達は人を評価出来るほど偉いの?
それとも、悪口言われたことないの?そんな環境で育って来ちゃったの?」


半分以上八つ当たり。根元がサッカー部の彼だけじゃないのは分かるけれど、辞めれば怒りの行き場が無くなってしまう。

誰が間違ってるのか、何が合ってるのか。


「君みたいな人間には…分からない。分かってほしくもない。
だから、一生そっち側でぬくぬく笑ってれば良いよ。」


あたしは退いた。もう用なんてない。

戸惑ったように止まる彼は、足が石になってしまったのか動かない。表情も変えない。

言い過ぎたなんて思わない。あたしは過去には執着しない主義だから、このことに関してもう掘り返す気もない。

ローファーに足を入れて、初めて、気づく。

あ、古典のプリント。











裏側




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