楓さんのイトコは、びっくりするほど我が儘だった。
本当に同じ歳なのって聞いてしまいたいくらい。
それには事情があって、幼い時に両親が離婚してしまって仕事に忙しくなった母親に変わって、面倒を見ていたのはおばあちゃんだったらしい。
色々甘やかされて育った楓さんのイトコの楸ちゃん。
「何これ、あたしが買ってきてって言ったの赤いボールペンなんだけど!」
「売店に赤無かったから、ピンク。丸付けするんなら支障ないよね?」
「丸付けするんだから赤なの!」
キィィィ…と怒る楸ちゃん。困る私。
「楸が俺と話があるからなーちゃんを買い出しに行かせたんでしょ。」
気にしなくていいから、とピンクボールペン代をくれる楓さん。
「じゃあ、楓がカフェオレ買ってきて。あったかいの!」
「はいはい。」
従順に従う楓さんは、さっさと病室を出て行く。私を一人残して。
お正月セールで買い物をしていて、バス停で楓さんに会って流れるようについてきてしまった病室。私は本来家に帰って夕方の再放送ドラマを見るはずだったのに!
にしても、この子はお姫様みたい。そして楓さんは王子様みたい。頭の中で二人を並べてみるとお似合いで、美形の血というのは怖いと思った。
「楓って、学校でどうなの?」
部活中に足の骨を折った楸ちゃんは、足を吊している。
「え?」
「だから、同じクラスなんでしょ!?楓の態度くらいわかるでしょ!?」
ベシベシと棚を叩く楸ちゃん。
見ているこっちの手が痛い。
「どうって…普通に。」
音楽を聞いて、ぼんやりして、ファミレスに行って、ぼんやりして…
…どうしてぼんやりばっかりしてるんだろう。
あれ?と首を傾げたら、楸ちゃんに白い目で見られた。
「お正月早々呼び出してみれば、女の子なんて連れてくるし…。」
「え、何?」
「あなたって、頭も悪そうだけど耳も悪いのね!」
キーンと耳を通り越して頭に響く声。思わず目を瞑ってしまった。
楸ちゃんは、私から顔を背けて病室の扉の方を向いてしまう。
拗ねちゃった…。
丁度、その扉から楓さんの姿が見える。
王子様が来たならもう安心。
「うわ、もうこんな時間じゃん。なーちゃん帰んなきゃ。」
楓さんは、楸ちゃんに温かいカフェオレを渡しながら言う。
その言葉を聞いた楸ちゃんの瞳が、寂しげに滲んだ。それを見て、ちょっと気持ちが揺れる。
「楸、また今度来るよ。」
「…うん。」
「なーちゃん、遅くなると危ないから。」
「はーい…。」
私は荷物を持って、ベッドから離れる。「ばいばい、楸ちゃん。」そう言うと、服の裾を引っ張られたみたいで前に進めない。
「…どうしたの?」
「楓はね、」
続ける。病室内に、楓さんの姿は無い。
「私の家来にはなってくれるけど、王子様にはなってくれないのよ。」
さっきとは違う瞳。
「お姫様になれると良いわね。」
少しだけ笑みを零す顔。今日、初めて楸ちゃんの笑顔を見た。
可愛い。
「楸ちゃんをお姫様みたいに見えたけどなぁ…。」
「この鈍感女!もう行ってよ。」
ああ、またキーンと頭に響く声。楸ちゃんはもう服を掴んでいなくて、カフェオレを開けている。
「…楸ちゃん、ありがとう。」
手を振った。振り返すことなく、そっぽを向かれてしまったけど。
私は病室を出た。
廊下に居た楓さんの後ろの窓の外には、白い雪がハラハラと降っていた。
20120101
明けましておめでとうございます。
楓さんと渚さんの話。あ、いや、渚さんと楸さんの話だ。
今年も何かとよろしくです。(ペコ)