インキャラクター。
ここかな、という予想は当たった。
廃墟の隅っこでボロ雑巾と化した姫を見つけた鑑は淡々と救急車を呼ぶ。
「ねえ」
起きない。死んだのかもしれない。
「ねえってば」
息を確認するのは正直怖かった。鑑は何回か姫の死ぬか生きるかの瀬戸際に遭っているが、未だ死んでいない。
「…あ?」
ほら。
布擦れの音。顔を覆うように腕が乗る。
時間が経って血が黒く変色していた。鑑はその場にしゃがんで膝に顔を埋める。
深く息をする音。
「全身痛い」
「…馬鹿じゃないの、本当…なんでもっと要領よく出来ないの?」
「要領よく、ねえ」
口元の傷が痛くて話しにくい。笑みを浮かべようとしたが、出来なかった。
「高校でキャラまで変えてさあ…。そんなに麦野さんのこと、気に入った?」
あ、と感じる鑑。
言ってからでは遅い。でも、言葉にして初めて分かった。
これは嫉妬だ。
「キャラとか、お前って昔からそういうの気にするよな。外見大事って」
「だって外見しか見れないじゃん」
近くまで来た救急車の音が聞こえた。誘導して来なきゃいけない、鑑は立ち上がる。
「…鑑」
「何?」
「お前も結構キャラ変わってる」
優しく緩んだ姫の目元に、鑑は泣きそうだった。
狡いと思う。
菫は先回りしなくても、後ろから大声をかけなくても、姫に近付いて貰える。
それは、自分だけのものだと思っていた。
「そう?」
「ずっと一緒に居る俺が言うんだから本当」
でも、この馬鹿男も、菫も憎めない。
そんなこと、知ってた。
20130721
(姫が悪友と手を切った少し後の話)
[mokuji]