現実と果実
鋭い視線を向けられているのには気づいている。
しかし、自分が何かしたか、と今までの行為を思い返す柘榴。
「―――では、これで説明を終わります。三年生の方はお疲れ様でした」
次の美化委員長に決まった女子が、全員を起立させる。今回の招集で、三年生のミナサマ、麦野や櫻井は終わりになる。
立ち上がって礼をして終わり。早く帰って夕飯の買い物に行かねばならない柘榴は、資料を手早く鞄に入れた。
ぐらり、と持った鞄の方へ、かけていない重心がかかる。
「…一年間お疲れ様です」
櫻井に「心にもないことを」と言われるかと思ったが、そこには麦野しか居ない。
前列で次の幹部に仕事を大まかに説明している。
「柘榴さんも」
「はい?」
「お疲れ様、幹部」
鞄の底を掴んだまま麦野は穏やかに笑っていた。だが、後ろから湧き出るオーラを感じられないほど、二人は短く同じ時を過ごしたわけではない。
「私が幹部に入らなかったことを言いたいんですか?」
「もっと言うと、委員長継ぐんだと思ってたけど」
「まさか。三年では委員会には入らないつもりです。それに、あの子が推薦で選ばれたんですから」
柘榴は視線をそちらに向けた。同じく麦野も向ける。
櫻井の話を熱心に聞く次期委員長。
「甘い現実には裏がある」
呟いた麦野の言葉に、柘榴は思わず笑みを零した。麦野がそんなことを言うのは珍しい。
笑った柘榴に驚きながら、視線を戻した。
「甘い果実には毒がある」
20130712
[mokuji]