ほっとけない壱
うわああ。
ストッキングが伝線しているのを見て、声を上げたくなるのを堪えた。
いつからだろう。電車に乗ってた時からかな? 気付いたんなら誰か言ってよもう!
いや、言ってくれるはずもないのだけど。
頬を膨らませながら、駅のベンチに座る。
ストッキングの替えってあったかなあ?
ガサガサと鞄の中を探す。ファイルが、資料が、ぐちゃぐちゃになりつつある。
「…ちょっと、」
「はい?」
隣の方から聞こえた声に顔を向けた。紅い髪を一つに結んだ綺麗な顔の人。女の人にしては体つきが、と思っていると、
「少しは周り見ろよ、すげースカート捲れてますけど」
バサリとブランケットのような物を膝に落としてくれた。
「え? あ、ありがとうございますっ」
「いーえ、じゃあそれやるから」
髪色と同じ紅いブランケット。男だろうと女だろうとこんなの常備してるなんて、私より女子力が高い。
「そんなの悪いです、なんか代わりに…」
「いらねーから」
男性だ。細い足で、時間になったのか、歩いて行ってしまう。
名前聞けば良かったなあ。また会えるかな。
(彼女Aが姫に会ったとき)
20130928
[mokuji]