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白玉の


 言葉を発しない馬頭丸を見れば、なにかをじっと見つめて固まっている。
 あれ? おれを見ているよな。でも視線が合わないのはなんでだろう?

「閃……おっぱいがくっついてるよ!」
「ついてるんだ。元々」

 それじゃぁまるで取り外しできるみたいじゃないか。

「えぇっ女の子だったの!?」

 馬頭丸はかなり驚いているようで、両手をほっぺに当てている。
 愛らしいなと笑いかければ弾けるように肩をゆらし、すごすごと湯船に入ってきた。

「体を流して入りなさい」
「さっき牛頭と入ったもん。二度風呂だよ」

 だったらいいのか。ほのかに紅くなった馬頭丸は微妙な距離をとって横に並んだ。

 おれはしばらく月夜を眺めていたが、気になって目線を戻す。馬頭丸は慌てて正面を向く。

「なんだい」
「どうして男だと思っていたんだろう……」

 馬頭丸はそう呟くと口元まで湯に浸り泡を立て始める。
 のぼせたのなら上がればいいのに。

「背中、流してくれないのか?」
「ううん……いいの?」
「あぁ、よろしく」
「じゃぁ後ろ向いているから、背中向けたら教えてね」

 えらく紳士じゃないかと笑い、一応さらしで下を隠して腰かける。

 馬頭丸は手ぬぐいを持っていたようで、「頼む」と声をかければぎこちない返事が返ってきた。

 湯から上がる音が聞こえて、いっときすると背中に手ぬぐいが当てられる。
 馬頭丸が息を吐きだしたので、ついつい笑ってしまった。

「恥ずかしい年頃か」
「ちっ……ちがうっ!!」

(必死だな)

 ちょうどいい力加減で擦ってくれるので、だんだん気持ちよくなってきた。
 綺麗な女に流してもらうのもいいけれど、こっちも悪くない。

 「うまいな」と褒めると牛鬼の背中も流しているのだと嬉しそうに答えてくれた。

 洗い流してもらって、また湯に浸かりたかったが、馬頭丸はのぼせたようで顔が紅い。
 雰囲気からして、馬頭丸はおれが上がるまで一緒にいるようだ。

 子どもに無理をさせるわけにもいかないし……もう上がったほうがいいだろう。

 馬頭丸に声をかけて立ち上がったら、「ボクが先に歩くっ!!」と怒られる始末。
 脱衣場についたら馬頭丸は素早く自分の籠を持って、ひとつ向こうの棚に消えてしまった。

 なんだかんだで恥ずかしいのか。

 素っ裸で歩き回ってる癖に。

 それにしてもいい湯だったな〜 美肌効果もあるのだろうか。

 でも白玉の肌を持つ赤土や家鳴りってのも気色悪いよな、うん。

 くだらないことを考えながら、柔らかい布で身体を拭いた。

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