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板前とかもしてました


 そうこうしていると、赤土たちが野菜と豆腐を持って帰ってきた。

「外で野菜の土を流してくれ、家鳴りたちはそれをもう一度流しで洗って」
「いっぺんに流しですればいいじゃん」
「それだと土が詰まるだろ、さぁ始めよう」

(板前していたころを思いだすな……)

 もうずいぶん昔の話だ、いまはその里があるのかどうかも想像つかない。
 懐かしみながらも、放置されていた大根を手に取り誤魔化しつつ角に切る。
 次々にまな板に上げられる大根を、千六本といわず百六本に刻んでいく。

「すげぇ」

 目に見えない速さだと子鬼たちがはしゃぎたてたので、すこし照れる。
 このくらい、慣れれば誰でもできるだろうに。あぁ、きっと切りかたもまともじゃないんだろうな。

「ん? コレは痛んでいるな。表にだしといてくれ」
「どうして解る? あっ中かが腐ってる」

 大根を真っふたつにした鬼が驚いて、それを仲間に見せる。

「おー……」

 なんか子どもっぽいよな、子鬼だからそう見えるのかもしれないけど。
 声をそろえてはしゃがれるとなんだか和んでしまう。

 どうして解ったのかと騒ぐので、次の大根を切りながら苦笑した。

「臭いでなんとなく」
「すげーっ」

 大ざるになん杯かに積み上げられた角切り大根。
 このくらいあれば十分だろうと、野菜を洗っている家鳴りを呼んだ。

「これに塩を加えて、ごはんと一緒に炊いてくれ」
「おぉ大根飯かっ!!」

 あとは大根の葉と豆腐で汁物を作り、野菜を軽く塩で揉んで……

「あと、魚があればな……」
「よし取ってこよう!!」

 子鬼たちとは違う野太い声が空気を震わす。
 大声に驚いて赤土たちを見れば、それはそれは輝いていた。

 久しぶりにまともな飯が喰えると、喜ぶ様は半端じゃなかった。
 なんでもまともな飯は上に差しだして、自分たちは生の野菜をかじることのほうが多いらしい。

 人間を食べればいいのにと言ったが、どうやらいつも逃げられてしまうとか。
 あぁそっか、頭も弱いんだったなと笑いかければ照れられた。

 赤土たちがでて行ったあと、子鬼たちは期待を込めた眼でオレを見上げている。
 最初のような敵意もないようで、こちらも接しやすくなった。

 どうやら素直に動いてくれるようだし、家鳴りはすでに豆腐を持ちだしている。

「あと少し、頑張ろうか」
「おっーっ!!」

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