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君の横顔


 中学の時に、少しだけ時間をともにした奴がいた。

 とは言ってもただクラスが一緒だっただけ。だけど、確かにそいつはいた。

 色素の薄い髪に同じく薄い瞳。

 色白で細いそいつは、男だ。


 一番後ろの席にそいつは座り、私はたまたまそいつの隣だっただけ。

 私が初めて夏目貴志と話したのは、彼がクラスで完全に浮いた存在になった後のことだ。



「なんだよ……」


 いくら机の中を漁っても、目当ての教科書は見つからない。

 机に突っ込んだままの教科書を全て引き抜いても、潰れたプリントが顔を出しただけだ。

 全教科、確かに詰め込んでいたはずなのに。持って帰るなんて面倒なことはしない。

 念のため足元に転がっている鞄を持ち上げてみるけど、教科書が入っているような重さはない。

 いつも鞄には弁当しか入れていないし、間違って家に持って帰ったのか。

 両手は教科書を机に押し戻すことに専念しながら、脳は数日前の曖昧な記憶を探る。

 あ、そういえば先週持って帰った。思い出した。

 目当ての教科書は、雑誌と雑誌の間にある。

(ツイてない)

 舌打ちしたら、隣の机が揺れた。

 あ? っと睨めば、色素の薄い少年は慌てて目線を黒板に戻す。

 何をそんなにビビッているのか解らない。たかが舌打ちだ。みんなしてる。

 その端正な顔から視線を外したとき、いいことを思いついた。

「ねぇ、教科書見せて」
「え?」

 返事が返ってくるまえに机をずらす。

 嫌とは言わせないぞ。もう机はくっつけたから。

 机を動かすときに音が出て、今までみて見ぬ振りを貫いていた先生がとうとう口を開いた。

「どうした増田。さっきからうるさいぞ」

「ごめんなさい、うちの教科書が迷子で。夏目君に見せてもらおうと思って」

 おまえ、置き勉常習犯の癖に〜と誰かが突っ込む。

 一時の笑いを誘い、またいつもの授業風景に戻った。

「悪いね」
「い、いいよ別に」

 耳打ちすれば、同じく小声で答えてくれた。

 控えめに笑っているが、どう反応したらいいか困っているらしい。笑顔が硬い。

(ぎこちないなぁ)

 人と関わりを持たない奴らしいけど、愛想が全くないわけでもないんだ。

 いや、何か質問しても全部はぐらかされると、このまえ男子が言ってたな。

――――人と付き合うのが苦手なのか

 夏目の目線が教科書に戻ったので、私も教科書を眺める。読みはしない。

 ページをめくる夏目の細い手をみながら、不思議な転校生について考えにふけっていたけど、途中から今日の夕食が気になりだし思考はそっちに移行していった。

君の横顔

綺麗な瞳が印象的だった

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