銃口。





裏切り者、と呼ばれた男は引き金に指をかけたまま床に頬をつけ頭から血をだらだらと流して死んでいた。


(男が最期、引き金を引くのを躊躇った理由を俺は知っていた。俺はその男に銃口を向けた。)


既に息絶えた男のこめかみを踏み付け、汚いものを見るように目を細めた彼は、くわえた煙草を血溜まりに捨て、片付けろと言った。


(彼は自分に向けられた銃口が火を噴く前に崩れ落ちるのを見つめて、ただ、馬鹿な男だと吐き捨てた。)


躊躇えば死だ。覚えておけ、と彼は俺に言う。


(はい、と言いながら俺は、地に臥す男から目を離すことが出来なかった。)


どうしたって男は自分の願いが叶わないと知っていて、行動を起こした。


(その計画は俺が協力すれば成功するはずだった。俺は男を売った。)


彼を陥れる者から彼を守るために仲間を裏切った計画。


(男は彼を愛していた。正気を失うほどに。)


男は裏切り者のレッテルを貼られ、追われ、命を狙われた。


(本当の裏切り者が彼だとも知らずに。)


俺は最初から彼の犬だった。最初から何もかも知っていた。男は何も知らなかった。


(可哀相な男。真実を知らず、墓もなく、涙を流す者もない。)


冷酷な彼の靴がカツカツとタイルの床を鳴らす。その見慣れた後ろ姿を見て思う。


(俺はどうして何の為に彼についているんだろうか?)


よく考えれば俺は人並みの野心も執着も何も持ち合わせちゃいなかった。彼の犬になった理由も覚えていないが、恩も義理もないことはたしかだった。


(ただ流れに身を任せてのっぺらぼうのように生きる自分を気持ち悪いと思った。さっき死んだ男のような、盲目の愛の方がまともな気がした。)


ポケットの冷たい拳銃の存在を感じた。手に取り、彼の後頭部に銃口を向ける。彼が振り返る。お互いの拳銃がカチャリと鳴る。


(躊躇ったのは、どっちだ?)








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なんだか勢いだけで書きました。男ばっかり。


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