22歳×25歳






19歳のコウくん達が帰ったら、其処にいたのはいつものコウくん達だった。

「おかえり〜」
「あ、ちゃんと起きてた」

俺を見るなり、近寄って来ていつものように順番にキスしてくれる。俺にとってはいつものことで、当たり前になっている。

「お風呂は?」
「……起きたら3人がいたんだって」
「はいはい、じゃあ沸かしてくる」
「俺は食事の用意してくる」
「お菓子あるから大丈夫だよ?」
「きちんと食べないとダメだ」
「んっ……」

コウくんは俺にキスするとキッチンに向かってしまった。さっきまで見ていたコウくんはあんなに不安そうな顔していたのに、3年で人って変わりますよね、本当に。
それは俺も同じだろうけど。

「コウくん、あんな顔してたのにね」
「なんだ、何か言っていたのか?」
「うん、俺はこれで良いのか?って言われたよ」

俺が3人と付き合ってる、そう察した時のコウくん達の顔は凍りついていた。
常識では考えられないことを事実として突き付けられて、ましてや彼らの知る俺の未来が今の俺だから驚いたのかも知れない。
3年前の俺はまだ3人に向けられている好意に気付いてなんていなかった。いつ捨てられても良いように、そんなことも思っていた。
だから『好き』と言われた時に戸惑ったし困った。たった一人を選べないから俺が無理をすれば良いと思ったから3人で、なんておかしなことを言ったのに3人はそれを受け入れてしまった。

「本当に一人を選べなかったの?」
「え、今それを聞く?」
「だって嘘ついてるだろ」
「……バレてましたか」
「わかるようになったんだよ」

お風呂を沸かしに行って戻って来たリョウくんに後ろから抱き締められてしまう。しかもすりすりと擦り寄ってくる。

「あー……やっぱりこの衛が一番可愛い」
「くすぐったいよ〜」
「で、どうなの?」
「えぇ〜」

ちゅっ、と頬にもキスされて嬉しくなってしまう。うん、つんつんしてるリョウくんも良いけれど今の俺には甘々なリョウくんもやっぱり好き。まぁ、未だに外では誰かの目がある時はつんつんですけどね。

「それは俺も気になるかも」
「ケンくんまで」
「あ〜衛だー……」
「そうだよ〜」

昔の俺に対して我慢してくれていたのかな?
ケンくんはごろっと俺の太腿に頭を乗せて寝そべってしまう。もう、可愛いなぁ……

「俺達に何もされなかった?」
「されないよ、3人だもん」
「特にコウは堪え性がないからなぁ……」
「聴こえてるぞ」

そう言うことに興味のあるお年頃だから手近で済ませたのかも、なんて安易なことを考えていた。だからきっと俺への興味が失せれば何事もなく振る舞えば良いとさえ思っていたのに。
そんなことは一切なく、未だに彼らは俺から離れない。触れられれば触れられるほど抱かれれば抱かれるほど想いは蓄積して、俺の中で消えないものとして残ってしまって……そして失いたくないものへと変わってしまった。
3人から注がれるものは重たく、どろどろとしていても何処までも優しくて、ぬるま湯のような心地良さがある。
一度知ってしまえば手離せないほどの心地良さだった。

「俺はね、本当に幸せなんだよ」

膝に寝そべるケンくんに、後ろから抱き締めてくれるリョウくんに、そっと触れる。
愛おしくて堪らない、大好き。
コウくんのほうを見れば気づいてくれて、こっちに来てくれる。

「んっ……」

手は空いてないから唇で触れれば、胸が苦しくなる。離れていくコウくんを見つめれば、笑いかけてくれる。

「そんな顔をするな」
「どんな顔……?」
「もっと触れたくなる顔だ」

唇を突き出せば、コウくんはまたキスをしてくれる。今度はさっきよりも深くて、コウくんの舌が俺の咥内に滑り込んでくる。
食べられちゃう、そんな錯覚さえ覚えてしまうけれど、それはすぐにリョウくんとケンくんによって遮られた。

「なんで」
「衛はご飯食べてない」
「……そうだった」
「あと、お風呂も入ってない」
「そんなの別に…」
「疲れが取れなくて辛いのは衛なんだよ」

見なくても後ろにいるリョウくんの圧力が半端ないのがわかる。人のこと散々抱き潰すけれど、リョウくんは俺のことをとても考えてくれているのがよくわかる。
しかもタイミングよく、キッチンからはタイマーも鳴るからコウくんは渋々キッチンへ戻って行ってしまった。

「衛もコウのこと誘わないの」
「そんなことしてないよ!」
「過去の俺達に会って寂しくなったんなら健全に構ってやるって」

ケンくんには何かすぐバレてしまう。
俺がわかりやすいのか、それともケンくんが察するのが上手いのか。今多分……前者。
3年前の3人を見て、今の3人が恋しくなった。同じ顔なのに俺を見ても顔を赤らめるだけ、近寄って来てくれない、朝のキスをしてくれない。それは初めてのことで、怖かった。
昨日あれだけ俺に『愛してる』と言ってくれて、キスもたくさんしてくれて、とろとろに溶かして、たくさん愛してくれたのに。
起きたらいたのは3年前の3人。
3年前の3人だから、と頭ではわかっていても何処か不安で怖くて、今の3人が戻って来て俺にキスしてくれたから安心した。
そしたら触れて欲しくなって、恋しくなってしまった。

「別に抱かなくても俺は衛のこと、愛してるから大丈夫だって」
「……ケンくん……」
「俺も今は健全に衛を可愛がりたい気分なんだから、スイッチ入れようとしても駄目だからね」
「スイッチって……」
「お風呂沸いたら一緒に入るからね」

全部お見通し。
意図を汲んでくれて、愛されて、甘やかされて……敵わない。するり、とリョウくんの腕が解かれて、体温が無くなってしまうとまた少し切なくなる。

「衛は寂しがりだなぁ」
「……そんな風にしたのは3人でしょ」
「うん、そうだ」

側にいて欲しい。
でも今は俺の奥深くまで触れて、愛して欲しい。それなのに触れてくれない。

「やっぱり抱いて欲しい?」
「うん」
「ダメだって。昨日あれだけ無理させたんだから」
「……でも……」
「俺達は離れていかないから」
「わかってる、けど……」

わかってても、不安。
不安になる必要なんてないのに、そんなのわかってるのに。

「昼寝は一緒にしてやるから」
「え?」
「何なら夜も抱き締めてやる」
「う、うん?」
「たまには普通に夜を過ごしてみろってこと」

夜はコウくんと眠ることが多い。
リョウくんやケンくんとは時々。何もしないで夜眠るなんてことは少なくなったからそう言われると戸惑ってしまう。
この3年間で今までの人生を覆されてしまったから、もうどうしたら良いのかわからない。

「だから今日は一緒に寝ようぜ?」
「うん……」
「多分リョウも来る」
「コウくんは?」
「コウも絶対来るだろうけど、抱かせないからな」
「はぁい」

たまには何もせず、ゆっくりと。
前だったら当たり前にそうして眠っていたのにね。少しだけ怖いけれど……大丈夫だと思いたい。

「とりあえず、まずはリョウと風呂入って来い」

ちょうどリョウくんがお風呂の支度を終えて戻って来た。ふんわりと香る匂いに何のバスボム入れたのか気になってしまう。

「衛、行こう」
「うん」

リョウくんに手を引かれて、ケンくんから離れてしまえばこれまた切なくなる。でも、リョウくんが手を繋いでくれてるから大丈夫。

「風呂から出たら昼ご飯にしよう」
「楽しみにしてるね」

そうだよね、何も不安になることなんてないんだよね。俺はこんなにも愛されているし、3人を愛してる。だから……大丈夫。
今までこんな風に誰かに愛されたことなかったから不安で、不安で……求められるままに応えていたけどそれじゃダメだと教えられて……
それでも俺は愛されてる。それってとても幸せなことで得難いものを得たんだと思っている。

「リョウくん」
「ん?」
「俺、幸せだね」
「これからもずーっと幸せにしてあげるから、覚悟してて」

お風呂場でそう言ってリョウくんは優しくキスをしてくれた。ほんの少しだけ、その言葉に泣いてしまったのは俺だけの秘密。
涙なんてお風呂のお湯と一緒に紛れて消えてしまった。








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