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慎重派の彼が壊れるとき 1

※性的描写を含みます。
閲覧は自己責任でお願いします。

P.S
この前送ってくれた村で収穫したクルミ、ちゃんとヤマトさんに渡したよ。とっても喜んでいて、彼からもお礼の手紙を預かっているので同封するね。

お母さんへの手紙の最後にこう付け加えた。
よし、これで完成。
用意していた封筒に私が書いた手紙とヤマトさんからのものを入れて封をし、仕事鞄の中にしまった。
明日、出勤前に投函しよう。

時計に目をやると針は夜中のてっぺんを指している。
手紙を書いていたら、あっという間に時間が経っていて、びっくりだ。

明日も仕事。きっと忙しいし、もう寝ないとな。
10月になった。
季節の変わり目は体調を崩す人が続出するからこのところ大変なのだ。

私は部屋の電気を消し、寝室のベッドの中に身を入れて豆球の小さなオレンジの明かりをぼうっと見ながら、彼のことを思い出した。

“これ、一緒に送っておいてもらえないかな”

わざわざお礼の手紙を書いてくる彼の真面目さと誠実さに思わず口元が緩む。
眠りに落ちる前のこの時間、私の思考の行き着く先はいつでも彼になってしまう。
お母さん、ヤマトさんからの手紙喜ぶだろうな。

本当に優しい人。
最近、ちょっといたずらめいたことをしかけてくるようになったけれど。
そんな彼にますます惹かれていく。

明日は仕事終わりに食事にいく約束。
最近私が忙しそうにしているから、外食にしようって彼が提案してくれた。

早く会いたい。
朝、目が覚めたら明日の夜にジャンプしていたらいいのに。
遠足の前の日みたいにわくわくしてしまう。
それに、外食ってことはあれだな…
きっと帰りのいつもの道で彼はキスをする。
とびきり甘いやつ。

先週、外食した帰りのことを思い出し、私は思わず恥ずかしさから手で顔を覆っていた。
あの日も彼の唇は優しく私のものへと落とされた。
そして、彼の器用な舌は私の唇をゆっくりと丁寧になぞっていって…
舌で私の唇を記憶しようとしているのではないかと思うようなその繊細な舌使いに私は酷く掻き立てられた。
そんなに焦らさないで……
早く、と。
気づけば自身の咥内に彼が侵入してくることを待ち望んでいて。
期待していた彼の舌がくると、私は進んで彼のものに自分のものを絡めにいってしまった。

駄目だ。
思い出しただけでも顔から火が出そう……
このところ、そんな自分の変化に私はとても戸惑っている。

だけれど、自らの中に潜む今まで知らなかった何か……
湧き上がる熱に気付けば突き動かされて、結果あの時、積極的に舌を絡める私がいたのだ。
濃厚なその行為は私の思考を溶かし、全身が粟立つような感覚に陥っていった。
そして、ひとしきり私の咥内を堪能した彼はそっと唇を離した。

どうしようって思った。
もしかして、彼は私を家に送るだけではなくて、そのまま夜を共に過ごす気なのかもしれないって。

彼が私を求めるのであれば、拒否するつもりはない。
でも、私としては……
まだ待ってほしい。
自分の湧き上がりつつある熱にまだ戸惑いを隠せないんだもの。
すると彼は私を見て小さく笑った。

「今にも火山が噴火するんじゃないかってぐらい顔赤いけど大丈夫?」
「誰のせいでこうなったと思ってるんですか。」

思わず噛み付いた返事をした私にヤマトさんは、ごめんごめんと、言いつつもまた笑っていて。
いっぱいいっぱいの私と違ってヤマトさんは悔しいほど余裕だった。

でも、彼が笑ってくれてホッとした。
あの甘い空気を引きずったままでいたら、その先の関係にいきついてしまうのではないかと思ったから。

キスだけで、こんなに動揺している。
その先の熱を知りたいような知りたくないような。
怖いもの見たさの気持ちも少しはある。
でも、やっぱりまだ開けてはならないパンドラの箱のような気がしている。

その割りには彼と唇を合わせる行為を待ち望んでいて
でも、唇を重ね続けたその先は身体を繋げるということだよね。
その先を知ってしまうことを恐れている。
そんな自分の矛盾に私はどう対処したらよいのかと頭を悩ませるばかりだ。

ヤマトさんは、何も言わない。
私を抱きたいとも、欲しい、とも。
そして、私も何も聞かない。

交際も7ヶ月が過ぎた男女がキスまでの関係ってのは異常だと周りはみんな言う。
自分でもそう思う。

でも…もう少しだけこのままでいさせて欲しいからこの問題について追求したくない。
だけど、明日も甘い口づけが欲しい。
この相反する2つの思考はなんなんだろう。
だって、怖いけど、好きなんだもん。
好き、大好き。

ああ、だんだん眠くなってきた。
このまま彼のことを考えながら眠りについたら夢に出できてくれないかな、
夢でも会いたい。
そして、キスして。

意識がどんどん遠のいていき眠りに落ちていく…
そのはずだった。
だが、睡魔は突如飛んでいき私はパチリと目を開けた。
ピンポーンと玄関のベルが鳴らされ、幸せなまどろみは突然の電子音によってかき消されたからだ。

こんな夜中に?
誰?
やだ、怖いな。

夜中にたまに急患の呼出で病院に駆けつけることはあるけれど、そんな時はいつも呼出し用の忍鳥が窓を突く。
いったい誰だろう。

私は不安な足取りで寝室から出た。
部屋の電気を付けるか悩んだがつけないでおいた。
もし不審者だったら居留守を使うためだ。

私の家はインターホンがついていない。
だから、除き穴から誰が来たのか確認しなければならない。
暗がりの中、恐る恐る玄関の扉の前に立った。
除き穴を見るのが怖い。
ちょっと勇気が出ずに扉とにらめっこしていると、意外な人の声が聞こえた。

「ヤマトです。こんな夜中にごめん。」

え、なんで?
こんな時間に?

―――

普段、夜に名前の家にお邪魔する時は9時頃には帰る。
遅くなっても9時半とか。
あんまり夜中になると、自分の理性に自信がないから。
勢いだけで性急にことを進めるつもりはない。

そりゃ僕としては……
もちろんしたいのだけれど。
まあ、彼女も本当に少しずつだけど、僕に歩み寄ってくれているし待ってる。

この前もそうだった。
僕が彼女の口内に舌を入れると、まるで待ちわびていたかのように僕のものに絡めてきたんだ。
あの名前がだよ?
信じられないだろう?
途端に僕の理性は弾け飛びそうになった。

“このまま今日は君を離したくない“

言ってしまおうか。
もういいんじゃないかな?
それに僕は……ずっと前から君が欲しくてたまらない。

でも、唇を離した瞬間に見た君の目は僕とは違った。
不安に揺れていて。
ああ、そうか。
君の中ではまだなんだね。
僕は今にも爆発しそうな自分の熱を誤魔化すために小さく笑っていた。

「今にも火山が噴火するんじゃないかってぐらい顔赤いけど大丈夫かい?」
「誰のせいでこうなったと思ってるんですか。」

ごめんごめんと、言い僕がまた笑うと名前はホッと息を吐いた。
やっぱりね。
そんな安心した顔しちゃってさ。
余裕ぶって笑ってみせたけどさ、本当のところはギリギリなんだよ。

でも、きっともう少しなんだ。
彼女の気持ちが僕に追いつくまであと一歩だ。
だから、ぐっと堪えている。

まぁまだ現時点ではそこまでの関係。
なので普段はこんな夜中に彼女と顔を合わせることなんてない。
だけど、今日はどうしても一目会いたくて。


部屋の電気はもう消えていた。
それでも僕は玄関のベルを鳴らした。

もう寝ているかな
出ないかもしれない。
あっ、部屋の中でゴソゴソと気配が動いた。
起きてる。

名前の気配は扉の前まで来た。
でも扉は開かない。

こんな夜中の来客だもんね。
警戒して当然だ。

「ヤマトです。こんな夜中にごめん。」

するとガチャリと鍵がまわされ、ゆっくりと扉は少し開かれた。
隙間から名前が恐る恐る僕を見る。

「本当だ。本当にヤマトさんだ。」
「うん、ごめんよ。こんな時間に。」

僕を見て名前は張り詰めた緊張が解けたように肩を下ろし、扉を開け入れてくれた。

「どうされたんですか?とにかく中へどうぞ。」
「いや、これから任務なんだ。その前に少し顔が見たくなっただけだから玄関で大丈夫。」

そう、急に任務を言い渡されて集合場所の門に行く前に寄っただけ。
彼女は凄く驚いた顔をした。

「今からですか?」
「ああ。急に呼び出されてね。2ヶ月は帰って来れないと思う。明日、会うのを楽しみにしていたんだけどな。ごめん。」

しばらく会えない。
こんな夜中に訪ねて、あんまり心配かけてもいけないと思ったけれど、どうしても会いたかった。
2ヶ月も離れるなんて、僕は凄く淋しい。

それに…名前にはとても聞かせられないような危険な任務。
なんでも暗部に欠員が出たとかで急遽僕にも出動がかかった。
もちろん絶対に生きて帰ってくるつもり。
でも戦闘も多いだろうし、きっと沢山血も浴びる。
負傷せずにちゃんと帰って来れるのかなって自分でも少し不安に思うような任務内容で。
僕の帰りを待っていてくれる君を見たら、こんな気持ちはきっと吹っ飛ぶ。
きっと上手く任務をこなせる。
そう思ったんだ。

一目見るだけでいい。
あと欲を言えば少しの会話がしたい。
それで満足だ。
そう思って来た。

その、はずだったんだけどな…
実際に目にすると、駄目だ。
欲が出る。

暗い部屋の中で佇む君を、玄関の横の窓から入り込む通路の蛍光灯の光が頼りなさげに照らしている。
そんな少しの光の中でもわかる。
名前の瞳は僕を心配して揺れていることが。

抱きしめたい。

「……無事に、帰って来てくださいね。」

彼女の柔らかな唇は僕の望む言葉を紡いだ。

「ああ、約束するよ。」

キスしたい。
会えない間の分を。
沢山。長くて濃厚なものを。

思考が今、危険な方向に進んでいるのは自分でもわかる。
一目見るだけでいいんじゃなかった?
見たら、抱き締めたくなる
きっと抱き締めたら、もっとキスしたくなる
じゃぁ、もしキスしたら?

………………。
いやいや、今からまず任務だしね。
それに彼女の気持ちの準備はまだできてないんだ。
初めて抱くときは、出来る限り優しくしたい。
名前が僕を欲しいと思ってくれるまで待つ。
お互いがお互いを求めてやまないようなそんな行為にしたい。

顔を見れて、僕の身を気遣う言葉まで聞けたんだ。
充分だろう。
行こう。

「本当に一目名前の顔を見たかっただけなんだ。じゃあ行くよ。」