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新緑の候


緑がまぶしい季節になりました。
そんな五月初旬、火影室へと向かう道中での出来事だ。
木陰で眠っている人物を見かけ、もしやと思い近付いてみると案の定ボクの恋人だった。

···どんな夢をみているんだろう。

兎にも角にも、無防備な寝顔を見せる彼女をこのまま放っておく訳にはいかない。
風に後ろから押された気がして、ゆっくりと近付き···唇を寄せてみた。
一瞬、睫毛が震えた気がしたけど···そんなのはお構い無しさ。

『ヤマトさん』
「···起きてたんだ。ははは···」
『ここ、外ですよ···!』
「す、すまない。でもキミが悪いんだよ、そんな所で寝てるから」
『寝てません!うたた寝してただけです』
「ほら、寝てるじゃないか」

彼女は頬を染めながら立ち上がり、スカートのシワを直す。今の時間帯は、丁度昼だからきっと昼食でも食べていたんだろう。その証拠に···

「ハンバーガーは美味しかったかい?」
『え···なんで知ってるんですか?』
「んー···キミの事は何でもお見通しってこと」

彼女の口の端に付着してる赤いソースを指で拭うと、柔らかい唇にも自然と触れる。すると、更に頬を染めては唇を尖らせる。

『ヤマトさん!』
「ははは。···どうしようもなく可愛いな、任務に行きたくなくなるよ」
『だめです!行ってください。ほら、隊長!』
「やめてくれ···キミにまで隊長だなんて言われたくないよ」
『ふふ、では改めて···行ってらっしゃい、ヤマトさん』
「ああ、行ってくる」

名残惜しいが微笑む彼女を横目にヘッドギアを着け直し、火影室を目指し足を進めた。

そうそう、ここだけの話だが···ボクの彼女はもうすぐで誕生日を迎える。なにか彼女へ贈り物を渡したい。そう思い悩んでいたんだが···その期日が刻一刻と近付いてきた。



「···という訳なんですけど、先ぱ···六代目はどう思います?」
「オレに聞かれても困るなぁ」

火影室の椅子に座る六代目を前に、悩みを打ち明けるが先輩は真面目に話を聞いてはくれない。
ボクには目もくれずに積み重なる書類の中から一枚引き出しては卓上へとソレを乗せる。

正直、嫌な予感しかしない。

「それよりもテンゾウ。特S任務があるんだ」
「···それは、いつですか」
「今週末。まぁ潜入調査だし期間としては軽く三ヶ月程は掛かるネ」
「······」

渡された任務書を見ると床に投げ付けたくなるような内容のものだった。
名前の誕生日。それは今まで欠かさずに祝ってきた。今年も祝えないわけではないけれど···ほら、普通に考えたら翌朝も彼女と朝御飯をゆっくりと楽しみたいじゃないか。

「···先輩、ボクの話を聞いてましたか?」
「勿論。ま、出発は誕生日翌日の朝だし···問題ないよね」
「大ありなんですけど···任務ですしね。分かりましたよ、行けばいいんですよね」
「話の分かる後輩をもってオレは幸せだなぁ···ハハハ」

手元から任務書がするりと六代目の手に戻ると、すぐに快諾の印鑑を押していた。
これでもう、ボクはこの任務から逃れられない。

「···先輩ってなんだかずるいですよね」
「その代わりと言ってはなんだが···名前ちゃんにはちゃんとプレゼントをあげるから」
「間に合ってます」
「まぁそう言うなよ」

じゃあ頼んだよ、後輩。そう言って六代目はまた作業に取り掛かった。
そしてその数日後。名前の誕生日当日を非番になるよう調整したと言うカカシ先輩に、ボクは頭が上がらなかった。
それもそう、丸一日彼女と過ごせるだなんて今まで一度もなかったのだ。



『まさか、ヤマトさんとこうして朝から一緒に過ごせるとは思いませんでした』

朝早く、玄関の戸の開く音がしてもしやと思い急いで寝室を出るとそこにはヤマトさんが立っていた。
誕生日、おめでとう。その言葉を聞いて、年甲斐も無くつい目頭が熱くなってしまう。
今まで、誕生日は欠かさず彼と過ごしてきたけれど、それは夜になってからの話だ。日々任務に追われるヤマトさんは忍としてとても周りから信頼されていて···なにより、火影様のお墨付きなのだ。里の為に頑張るヤマトさんを私は応援してあげたい。
だから、特別な日でも我が儘なんて言えないのだ。

「いつも待たせてばかりですまないな。今日はキミの誕生日···ボクからプレゼントを贈りたいんだ」
『プレゼント、ですか?』
「ああ。そのプレゼントというのがね···」

彼の口から出た言葉。
それは私にとって、とても特別なプレゼントだった。



『ヤマトさん!ここでいいですか?』
「いいんじゃないかな、景色も申し分無いね」
『ふふ···あ、敷物。端っこ持って広げるの手伝ってください』

緑の風景に囲まれたこの公園は、どうやら穴場スポットらしい。見渡す限りでは人ひとりと見当たらず 、緑色の芝生···そして色とりどりの野花が生い茂っていた。
二人で座るには広すぎるくらいの敷物を広げ地に下ろすと、すぐにヤマトさんは寝転がる。
五月の清々しい空。今日は絶好のピクニック日和だ。

『ヤマトさん、本当になんでも言う事を聞いてくれるんですか?』
「勿論。何でも言っておくれ」
『···では、膝枕をどうぞ』
「膝枕か···これはボクへのプレゼントになるな」

いそいそと、横座りをする私の太股へ彼は頭を乗せてくる。
そう、ヤマトさんからのプレゼント。それは、日付けが変わるまで私の言う事をなんでも聞いて叶えてくれる、という申し出だった。
最初、こう言われた時は驚きと戸惑いでどうしていいか分からなかったけど···我が儘を言える時なんて、そう無い。
だから、よく考えて···彼としたかった事を実行させようと思ったのだ。

『ずっと、したかったんです』
「ボクもだよ。膝枕って男の浪漫なんだ」
『···ピクニックの事です』

すかさず彼の頬をつつくと、普段あまり見る事の出来ない柔らかい笑顔を向けてくれる。
そして、横に置いている籠の中には今朝急いで作った有り合わせのお弁当とお茶の入った水筒が出番を待ちわびていた。

『少し早いですけど、お弁当にしましょうか』
「誕生日なのに作らせてしまって申し訳ないね。何か買えば良かったかな···ほら、キミの好きなハンバーガーとか」
『もう、ハンバーガーは忘れてください!それに、ヤマトさんと一緒に食べれるお弁当を作るのも、結構楽しいんですよ』

大きめのお弁当箱を広げると、彼はまた嬉しそうに微笑んだ。
ピクニックだなんて、世の中の恋人同士がやろうと思えば計画なんて簡単に出来る。
でも、私達はそれがなかなか叶わない。だから、こんな清々しいお天道様の下でヤマトさんとこうしてのんびりとピクニックが出来るだなんて···

『本当、良い誕生日になりそうです』
「偶然だな···ボクも今、同じ事を考えていたよ」

誕生日効果なのだろうか。此処は外だというのに恥じらいもなくヤマトさんと引き付けられるように顔を寄せ合い、ゆっくりと唇を重ね合わせた。



それから、ピクニックを思う存分楽しんで···買い物を済ませ自宅に戻ると早速夕飯の準備に取り掛かる。
ヤマトさんに背を向けて包丁の音を鳴らしていると腰に違和感を感じ手を止めた。

『···ヤマトさん、料理中はやめてくださいって何度も言ってますよね?』
「これも男の浪漫かな···エプロン姿ってそそられるんだよね」
『もー···夕飯が遅くなっちゃいますよ?』
「そうだね···でも、先に名前の方が食べたいかな」

やめてください、と···そう言おうとしたのに、ヤマトさんの長い指はエプロンの紐を解いて私のうなじにそっと唇を寄せてきた。
悔しいけれど彼は私の全てを知り尽くす。だから、こうなったらもう敵わないのだ。

『···っ』
「いいね···素直なキミが、ボクは好きだよ」

そのまま向かい合うようにと身体を回され、目が合った次には顔を寄せて舌で唇を割ってくる。
熱っぽい口付けは続き、敏感な先端を布越しで摘まれれば息も簡単に漏れてしまう。
彼はずるい。いつだって、簡単に私を悶えさせる。

「そういえば、願い事を全く言わないね···何もないのかい?」
『や、···んんっ』
「もっとこうしてほしい、でもいいんだよ?」

立ちながらの行為は続き、次第に脚に力が入ってこなくなる。
内腿を濡れた指でなぞられ、止まることのない愛撫は身体中の感覚を敏感にさせた。

『ヤマ、ト···もう、ベッドで···』
「···くっ、もう、いいかな···」

片足を持ち上げられ、慣れた動作で私の中に入り込む。
押し付けられる度に身体の奥からじわりじわりと快感の波が押し寄せて、余裕なんてすぐになくなってくる。

『ヤマト···っ』
「好きだよ、名前···」

それから、何度も何度も求められ···目が覚めると私はベッドの上にいた。
ふと、テーブルの上を見てみると置いていた彼のヘッドギアが無くなっていて···代わりに白い封筒と小さい小箱が置いてあった。
名前へ、と記されてある字は、間違いなくヤマトさんの字だ。中を開けて読んでみると、それはもう恥ずかしくなってしまう程に愛で溢れた恋文だった。

『ヤマトさんって、本当にずるい。いつのまにか誕生日終わっちゃったし···。それに、約三ヶ月も会えないなんて···』

そっと小箱にも手を伸ばし、ゆっくりと蓋をあけてみるとキラリと一粒の雫が輝いていた。

嬉しい。でも、悲しい。本当は、こんなものが欲しいわけじゃない。本当に···本当に私が欲しかったのは···

「ボクだって寂しいよ」
『···っ、ヤマトさん!』
「もうそろそろ起きたかと思って出発前に寄ってみたんだ」

居ないはずの彼の声がして、振り返ると任務着に着替えたヤマトさんがそこにはいた。
頬をかき、申し訳無さそうな表情でこちらを見ている。

···いけない。私は、こんな筈じゃなかったのに。

「···いまから出発ですか?頑張ってきてくださいね!隊長!」
『名前。ボクに叶えてほしい願い···まだ他にもあるかい?遠慮せずに教えて欲しいんだ』
「······」

もう、あまり時間がないだろう。
ならば、今まで我慢してた言葉を全て言ってみてもいいのだろうか。
手に持つ小箱にギュッと力が入る。

『···長期間の任務が入った時は予めちゃんと教えてください。手紙で言われても心の準備が出来ないじゃないですか。それと、外でキスしようとしないで。あと、料理中はイチャつくの禁止です。それに、何も言わずに出ていくなんてずるいです。しっかりお見送りがしたいんです。それに···』
「ははは···いっぱい出てくるな。それに···なんだい?」

『無事に、必ず···帰ってきてください』
「勿論だよ。約束する代わりに···ボクが帰ってくるまで、しっかりこれを指にはめててくれないかい」

小箱を取られ、ヤマトさんの指が私の手の平を捕らえて薬指へとそれをはめる。朝日がカーテンの隙間から覗きこみ、キラリ光る。

「名前へのプレゼントをずっと考えていたんだ。願い事を聞く···なんて、安上がりな贈り物だろ?でも、キミにはいつも我慢をさせていたから···誕生日の日ぐらい、全て叶えてあげたかったんだ」
『···じゃあ、良いですか。もう日付け越しちゃいましたけど』
「勿論さ」


これからも、ずっとずっと···共に歩んでいきたいです。


END
大切な友人に贈ります。お誕生日おめでとう!

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