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恋文


「やっと長期任務から帰ってこれた。家にお邪魔するの久しぶりだ。ふふ」
「おかえり名前。お疲れ様。」
「ヤマト、会いたかった。」

そう、凄く会いたかった。貴方のことを考えない日はなかった。
すると彼は言った。
“僕も君に会いたくて気が狂いそうだったよ”
そして、熱い抱擁。息が苦しくなるほどのキスが落とされ……

そんな展開はない。
3ヶ月ぶりの再会であっても彼女に甘いセリフは吐かない。だって、私の恋人はつれないから。いつだって犬みたいにキャンキャン懐く彼女を軽くあしらうのだ。
さっきも私の「会いたかった」に対して、ヤマトは小さく笑みを零しただけだった。
口下手なんだって思うことにしてたけど…

「あのさ、雲隠れの里からヤマト宛に手紙送ったんだけど届いたかな?」
「手紙…ああ、来たよ。バタバタしてて返事出してないままだったね。ごめん。」
「ううん、気にしないで。遠いからちゃんと届いたか心配だっただけだから。」

嘘です。本当は返事が来るのを楽しみにしてました。
ヤマトが忙しいのはわかってるけどショック。好きって気持を沢山込めて書いた手紙だったから、なんだか余計に虚しい。
話題を変えたくて、適当なことを口走っておいた。

「そうそう来る途中に蚊に刺されちゃった。木の葉にはもう蚊がいる季節なんだね。雲隠れはまだまだ寒かったよ。痒み止めあったら借りていい?」
「そっちの戸棚の中に置いてある薬箱に入ってるよ。じゃあ、僕はお茶を入れてくるから。」
「ありがと。探してみる。」

いつだって私の方が好きの分量が多いんだ。近くにいても不安になる恋愛なのに遠く離れてたら益々心配で堪らなかった。
私のこと好きじゃないのかなって。
長期任務が終ってヤマトの家を訪れたけど私は今も『彼女』で合ってるよね?3ヶ月の間に『同僚』に降格してたりして。
嫌な考えがぐるぐる頭に回って止まらない…
とりあえず、ヤマトが指差した戸棚を開けると薬箱を発見。たいして痒くないが塗らしてもらおうと薬箱を手に取るとひらりと足元に白い封筒が落ちた。なんの気なしに手に取ると、思いがけない文字が目に入り私は目をぱちくりさせた。

“名前へ”って書いてある

私宛の手紙?いつ書いたものかな。凄く気になるんですけど…悪いこと書いてあったらどうしよう。別れたいとか。
痒み止めはどうでもいいや。頭の中は目の前の封筒のことでいっぱいだ。
チラリとキッチンを振り返った。するとヤマトはまだコーヒーの準備をしている。今がチャンスだ。勝手に見たら怒るかもしれない。でも、つれない恋人の真意を知りたい!
腹を括った私はその場にしゃがみ込んだ。そして、一度大きく深呼吸をしてからそっと封を開けた。


名前へ

 手紙をありがとう。凄く嬉しかった。元気にしてるって書いてあったけど、おっちょこちょいな君の事だから怪我してないか心配だ。それに雲隠れは木の葉より寒いだろう?風邪引いてないかい?
僕はカカシ先輩にこき使われてヘトヘトだけど元気だ。最近もナルトとよくラーメンを食べに行ってる。もちろんカカシ先輩と飲んだりもしてる。つまり変わりなく充実した毎日を過ごしているよ。だけど、やっぱりどこか虚しい。だって君が側にいない。
 ふとした風景の中に君の姿を探してしまう。そう、例えば一緒によく散歩した道、お気に入りの公園のベンチ。いるはずないのはわかってるのに。
美味しい物を食べたらまず君の顔が頭に浮かぶんだ。きっと名前なら幸せそうに目をほころばせる、そんな想像をして頭の中で一緒に食べてる。新緑の中を歩けば肩を並べて歩きたいって思う。君が横にいなくても僕の心にいる。それだけで心が暖まる。でも、やっぱり会いたくて仕方なくなる。名前が足りないんだ。
なんだか照れるな。普段じゃ言えない恥ずかしいことも書いてしまうのが手紙の恐ろしいところだと思う。そして、君のことばかり考えていたらますます会いたくなって更に恐ろしい。
 今日も名前のことを考えて眠りにつくよ。せめて夢の中で会いたいから。もし都合よく出てきてくれたら僕らはなにをするだろう。
一緒に昼寝をするのもいいし、テレビを並んで見るだけでも幸せだ。
だけど、やっぱり抱きしめてキスしたい。そして肌に触れ合い互いの熱を共有する。
そんな夢が欲しい。目が覚めたら淋しすぎて一層想いが募り辛いだろうけど。
それでも思わずにはいられない。
願わくば、せめて夢の中で君との逢瀬を。

ヤマト



コーヒーを両手に持ってリビングに行くと、彼女は戸棚の前でしゃがみこんでいた。

「名前、薬箱見つかった?」
「願わくば…ぶつぶつ…」
「ん?何をしてるんだい?」
「手紙を読んでる。」

近寄ってみると、彼女が目を落としているものは僕が書いた手紙じゃないか!?
慌ててコーヒーをガチャりと机に置いた。ちょっと溢れたけど、そんなこと気にしている場合じゃない!
すぐに取り返そうと手を伸ばしたが、名前は便箋を胸元にぎゅっと抱き締めて返してくれやしない。

「…ちょっと名前……!それ、返してっ!」
「やだよ!だって私宛だもん!名前へって書いてある!」
「それは失敗作なんだ!読んじゃ駄目だ!!」
「もう読んじゃったよ。絶対に返さない!家宝にする!」

名前からの手紙を読んでたまらなく会いたくなり、そのままの勢いで書いたものだ。読み返したら小っ恥ずかしくてとてもじゃないが出せなかった。
破り捨てようか悩んだけれど心を込めて書いたからなんだか処分できなくて。とりあえず戸棚にしまっておいたんだった。
ああ…やっぱり捨てておくべきだった……

「返事、書いてくれてたんじゃない。どうして出さなかったの?」
「えっと…それはなんというか……とにかく今、恥ずかし過ぎて死にそうだ……」

自分の顔が火照っていくのがわかる。目の前で読まれるとはとんでもない公開処刑。
すると名前は眩しいほどの笑みを浮かべ、途方に暮れて立ち竦む僕を見上げた。

「ヤマト、とりあえず抱きしめてくれる?」
「…ごめん、後にして。心の整理中だから。」
「駄目だよ。だって手紙に書いてある。会ったらまず抱きしめたいって。そしてキスして、肌の温度を確かめ合……」
「うわぁぁぁぁ!やめて!朗読しないおくれ!顔から火が出そうだからホントお願い!!」

おしまい

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