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僕には好きな人がいます

初めて見たときは、ただ単に可愛らしい子だなって思ったぐらいだった。

そう、そうだったのに…どうしたんだ今の僕は


出会いは1年前。
木の葉病院に併設されている薬局。
正規部隊の上忍になって自分で兵糧丸を買いに行った。
暗部時代は支給されていたから、面倒くさいなぁて気持ちで。

その時、薬局の受付に現れたのが名前さんだった。
なんてことない普通の対応。
交わした言葉もごくありふれたもの。

今日はどうされましたか?
兵糧丸ですね。はい、少々お待ち下さい。おまたせしました。

そう、そんな会話。
柔らかい雰囲気で可愛らしい人だなって思った。
でも、ただそれだけだったんだよ。

それからちょっとして、薬局にまた足を運んだ。
任務が立て込んでいて任務と任務の隙間時間に常備薬の買い足しをこのタイミングでしておかないと!と思って僕は慌てていた。次の集合時間まであと1時間。
薬を買ったら急いで家に帰って支度して、さっとご飯食べてから任務に向かう予定。

「すみません、傷薬と痛み止めをお願いします。」

早く買い物を済ませてしまいたかった僕は早口だったと思う。
君は注文を受けてテキパキと用意してくれた。
そこまでは前と同じぐらいの印象だった。
空気を読んで急いでくれているなってのがプラスされたぐらいのさ。

「お待たせしました。」
「ありがとう。」

差し出された袋を受け取りながらも僕はお昼ご飯を何食べようか?とかもう次の行動を考えていて、さっさとこの場を立ち去ろうとしていた。

けれど僕の思考は一時停止。
なぜなら袋を差し出す彼女が驚いた顔をしたから。

え?なんだろう?

大きく見開かれた君の瞳は僕を見上げた。
そして、少し戸惑ってから意を決したように口を開いたのだ。

「…あの!……お急ぎですか!?」
「……はい?」

そうです僕はお急ぎです。

「お急ぎだと思うのですが、私に1分頂けませんか?手当を…」

彼女は僕の腕を指さしながら少し早口でさっきよりちょっと大きな声だった。
ありったけの勇気出しましたって、そんな顔で。
頬がリンゴみたいだ。

彼女の指差した僕の腕からは血が出ていた。
肘から手の甲にかけてスーと長く血が。
医療忍術をわざわざ使って治してもらうほどではないぐらいの、でも地味に痛いんだよなーて傷。

柔らかい雰囲気の子だな、なんて思っていた人がいきなりイメージ壊してきたからちょっとビックリして僕はポカンとしてしまった。

彼女は僕の無言を肯定と受け取ったようで、サッと腕を取り濡れたガーゼで優しく血を拭い傷薬を素早く塗ってくれた。

「この位だと自然乾燥が1番ですよね。」
「……ありがとう。」
「いえ、お急ぎのご様子なのに引き止めて申し訳ありませんでした。今から任務ですよね?お気をつけて、お大事に。」

僕はまだ驚きが抜けていない状態で思わず口からお礼が出ていた。
彼女は引き止めたことを気にしているのかちょっと早口だったのをよく覚えている。

まだ頬を赤く染めたまま優しく微笑む君から目が離せなくて……
僕は困った

胸がギューとしたから!

そう、この瞬間だった。
恋に落ちたのは。

------

1年間、密かに君を思い続けてきた。
大戦が終結し里はまだまだゴチャゴチャしているが、みんな前向きに歩きだしている。
この1年は君に恋心を抱いたところで僕のプライベートはないも同然。
みんなそれどころじゃなかったとは思うけど。

薬局に頻繁に顔を出してなんとか仲良くなるキッカケを作りたいところだったが、実際に行けたのは片手で数えるほど。
里外任務は多いし…ナルトのお守りとか先輩に仕事押し付けられたり、カブトに捕まったりさ!
いろいろあったからね。
まぁ、それはもういいんだ。
忍として僕のプライドをかけ真剣に取り組んだ結果だ。

よって僕は名前さんの中ではただの大勢の忍の中の一人にすぎない。
だけど、大戦も終わったことだしこのまま周りに流されて二十代の青春を亡きものにしたくはない。
後は行動に移すのみ!

そして今、僕は薬局の前に立っている。

今日、言う!絶対言う!
大きく深呼吸してから、考えた言葉をもう一度心の中で練習した。

“よければ一緒にお食事でもどうですか?”

よしっ!やるぞ!僕の人生は今始まるんだ!

勢いよくドアを開けるとそこにはいた
愛しの名前さん!!


と、カカシ先輩が。

「テンゾウじゃないの。」
「…コンニチハ、ホカゲサマ。」

なんで先輩がいるんだよ!!
他に誰かいることは想定していた。
人がいても構わない!と、意気込んでいたけれど…
よりによってカカシ先輩はないだろう!
こんな場面見られたら今後永遠にネタにされ続ける。
僕の決意は予定変更した。うん、別日だな、と。

「こんにちは。お久しぶりですね。ご無事で何よりです。」
「名前さんもご無事でよかったです。」

僕のこと覚えてくれてるんだ。
ヤバイな、顔に熱が集中していく。
少し声が裏返ってしまったじゃないか。恥ずかしい。

「……ふーん。で、テンゾウは何しに来たわけ?」
「ぼ、ぼくは……えっと、…兵糧丸を1ケースお願いします!」
「はい、かしこまりました。少々お待ち下さい。」

名前さんはにこやかに応えてカウンターの奥へと姿を消した。
こんなちょっとしたやり取りだけで、瞬く間に天にも昇る気持ちだ。
可愛い!久しぶりの名前さん可愛い!!

「へーえ、テンゾウが名前ちゃんをねぇ。」

そんな僕を見て先輩の目は途端にニヤニヤと弓なりになっていた。
察しのいい先輩は僕の気持ちに気付いてしまうよな。
あぁ、この人にバレたら面倒くさいからずっと密かに思っていたのに。

「……はぁ。」
「ふふふ、なにため息なんかついちゃってんの。別に邪魔なんてしやしないよ。」
「いやいや、完璧に面白がってる顔してますから!」

最悪だ。

「でもさテンゾウ、名前ちゃんは難しいよ。」
「どういうことですか?」

ニタニタしたかと思えば次は憐れんだ目線を向けられた。
なんなんだいったい…

そこに名前さんがパタパタと足音をたてて戻ってきた。

「お待たせしました。テンゾウさん。」

先輩がいつまで経っても暗部名で呼ぶから、名前さんまでテンゾウって言ってるじゃないか。
僕の名前知らないもんね。だって名乗る機会なんてなかったし。
ちなみに、僕が名前さんの名前を知ってるのは彼女が名札を付けているからだ。

「テンゾウは今はあだ名みたいなもので、ヤマトっていうんです。」
「…ヤマトさん!?…そうなんですか。そうとは知らずにすみません。では、ヤマトさん兵糧丸どうぞ。」
「ありがとう。」

初めて名前を呼ばれた。それだけで有頂天だ。
更に君がニコりと優しく笑うから、胸がギュって切なくなる。

もっとここにいたい。
久しぶりに会えたんだ。
だけど、そんなセンチメンタルな気分は先輩によってあっさり遮断された。

「でさっ名前ちゃん。例の件、考えといてよ。返答は急がないからさ。」
「……はい。」

困惑の表情を浮かべる名前さん。

例の件て何?
蚊帳の外の僕。
二人にしかわからない会話をされて居心地が悪い。
すると、先輩に肩を突付かれて外へと促された。

-----

そのままの流れで、定食屋に行った。
先輩は焼き魚定食、僕は和食日替りセット、だいたいそれ。
特に考えるでもなく二人ともいつものを注文した。
オーダーをつげて、先輩は一口お茶を飲んでから切り出した。

「テンゾウはさ、名前ちゃんの出身って知ってる?」
「火の国の国境間近の村だと耳にしたことがありますが。」

僕は名前さんのことをあまり知らない。
この情報も他の患者さんと名前さんが喋っていた会話を盗み聞きしただけだ。

「そう、昔から薬草がよく採れる村でね。彼女の村は薬草を栽培して薬を作っているんだ。いろいろと珍しい植物も育つらしく、代々その村人は薬学の知識が深くてとても優秀だと医療関係者の間では有名ならしい。」
「そうなんですか。」
「綱手様もその村を高く評価していてね、是非木の葉の里にもその知識を教授して欲しいとお願いしたのが5年前。」

カカシ先輩は運ばれてきた魚を綺麗にほぐしながら続けた。

「そして村からやって来たのが名前ちゃんだったみたいだね。」
「全然知らなかったです。」
「まっ、テンゾウも食べなよ。」

とりあえずパチンと割り箸を割ったものの、名前さんの話が気になって食事に集中できやしないよ。

「当初は4年で帰る予定だったらしいよ。」
「4年!?」
「そっ!でも、里はバタバタだし、戦闘にみんな駆り出されていくしで木の葉病院も人手不足が深刻だったから、契約を1年伸ばしてもらったらしい。」
「…1年、ですか。」

それってもう帰っちゃうってこと?

「そうそう。次の春で帰る予定みたいだよ。でも綱手様としては、本当に優秀な子だから残って欲しいみたい。いっそのこと木の葉に住まないかって誘ったらしいんだけど、良い返事はもらえなかったんだってさ。で、火影の俺からもお願いしてこいって言われて名前ちゃんのとこに行ったワケよ。」
「……。」

やばい。言葉がでない。
名前さんがこの里からいなくなるなんて、想像してなかった。

「まっ!綱手様情報では情にもろいから、押しまくればなんとかなるって言ってたし、テンゾウ元気出しなよ!」
「そ、そうですかね…。」
「まあ、もうすぐ帰っちゃうかどうかも気になるとこだけどさ、もう一つ問題があるんだよね。」
「まだあるんですか?」
「名前ちゃん、この里では彼氏作る気一切ないらしい。」
「ええええ!?」
「特上のやつで一人、告白したやつがいんのよ。」
「そうなんですか!?」
「キッパリ言われたらしいよ。……

「好きです!」
「ごめんなさい。」
「まずは友達からでいいので、僕のことを知って欲しい。」
「お気持ちは嬉しいのですが…よく知ったとしても、いずれ村に帰るつもりなので里で恋人を作る気はないんです。」
「遠距離恋愛でもいいじゃないですか!」
「………いえ、小さい頃からいずれ村で誰か見つけようと思ってますので。」……

てな感じだったらしい。」
「バッサリですね。」
「そう。そいつのフラれ話に付き合って飲んだから、前から名前ちゃんのことはちょっと知ってたのよね。凄く家族愛が強いらしくてホントは里に薬草学を教えに来るのも家族と離れて暮らすことになるからって悲しんでたらしい。」
「じゃあ、名前さんとしては早く村に帰りたいんですね…。」
「そ!綱手サマには説得して欲しいなんて言われたけど、あんまり無理強いしたら可哀相なんだよね。」
「すでに4年の契約が5年になっちゃってますもんね。」
「だから名前ちゃんは一筋縄じゃいかないかもってハナシ。まっ俺個人としては応援してやるよ!はい、ご馳走様ー。テンゾウ全然食べてないじゃないの。んじゃ俺先に行くね。」
「ちょっと!先輩、伝票ー!」

足早にさっていった…
今日もまた僕にお会計おしつけていかないで下さいよ!

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夜、布団に入っても僕はなかなか寝付けなかった。
今日はいろいろあったからな。
好きで好きで好きなのに、名前さんのことをまるで知らない自分が悲しかった。

里で恋をするつもりはない、か。

名前さんの笑顔を思い出して、苦しくなる胸をぐっとおさえた。

里からいなくなるかもしれないのも衝撃だったけれど、僕としては遠距離恋愛だっていいんだ!
そりゃ里にいてくれたら嬉しいけどさ。

それに恋ってするつもりじゃなくてもしちゃうものなんじゃないのかな。
僕だって任務に明け暮れていて恋なんて二の次だって思っていたよ。
思ってたはずなのに、このザマだ。
恋は落ちるものだって言うけどホントその通りなんだ。

名前さんも僕に恋に落ちてくれたらいいのに。
そしたら両思いだ。
気持ちが通じてしまえば距離なんて関係ない、なんて夢みたいなこと考えてみた。

現実はそんなに甘くない。
だけど、頑張ってみようかな。
やれるだけのことはやってみよう。
だって、この1年ずっと大事にしてきた気持ちをそんな簡単に諦められないんだ。
自分の思考が少し前向きになってホッとしたのかいつのまにか眠りに落ちていた。