※雄英卒業後
※同棲してる



「なあなあ、なまえちゃ〜ん」

晩御飯も済ませて今日は残すところ入浴して寝るだけという時分。洗い物が残っているけど、明日でいいかなって思い始めていた。
ふたり掛けのソファーで隣に電気がにーっと歯をみせて笑いながら、わたしを呼んだ。「ちゃん付け」でわたしを呼ぶときは電気がなにかを企んでいるかお願いがあるときだっていうのは、今までの付き合いで学んだことだった。

「なあに?」
「雄英んときの制服ってまだ持ってる?」

嫌な予感しかしない問いに対する答えを迷っていながらも、自分のクローゼットの中を思い起こしてしまうのは惚れた弱みでしかない。着て欲しいって言われるんだろうな、とある程度の予想をつけながらこたえる。

「多分持ってると思うけど、何?」
「この後風呂上がったらさ、着てみてくんね?」
「絶対イヤ」
「なんで!?」

わかっていた。即答でイヤだと答えるくらいなら、持ってるなんて答えなければよかったのだけど、そこはなんか、本気でイヤな訳じゃないという気持ちがそういうところに現れてしまったのだと思う。
風呂上がったらってことは多分、そのままそういうことに──ならないはずもない。明日は揃って休みなのだし、彼のお願いとやらを聞いても聞かなくてもそうなるだろうとは想像がついた。

「ねえいいじゃーん、今着たってなまえぜってー似合うって」
「いや無理あるでしょ。あれから何年経ってると思ってるの?」
「わあ、俺らそんなに長く付き合ってきたんだな! これからも一緒にいようなっ」
「さ、洗い物しよっと」
「つれねえ〜!! 頼むよなまえちゃーん!」

今すぐ洗い物しようなんて本気で思ってないせいもあって、泣き真似をしながらしがみついてくる電気に折れないままでいることは到底できなかった。


結局いつも通りに伴って入浴を済ませたあと、わたしは脱衣所から電気だけを追い出すかたちでそのまま着替えることになった。
何年ぶりかに袖を通すシャツもジャケットも、きついという感覚はなくて胸を撫で下ろす。問題はスカートだ。わたしはこんな短さで外を闊歩していたのかと今更ながら自分自身を疑った。こんな姿では外はおろか、電気の前に出るのも恥ずかしくてたまらない。
着たままの状態で硬直し続けていたところ、痺れを切らしたのか先程追い出されたはずの電気が脱衣所の戸を開けた。

「まーだー?」
「……っ、まって、! あ」
「え」

ガラリと開けられた戸の先でこちらを見る金色の瞳が揺れた。

「え……俺のなまえ、可愛すぎ……?」

はるか昔のウェブ広告のようなことを言い出す電気が口元を抑えるのを見るとまあ、悪い気はしなかった。あれだけ恥ずかしかった短いスカート丈も、彼にそういう顔をさせることができるならと思うとこれからどうしてくれようと頭が切り替わったように感じた。我ながら簡単な女だと思う。
まずは首へ腕をまわして、唇をあわせる所から始めることにする。

「ベッドいく?」

上目遣いにわたしからそう聞けば、こちらを見下ろす目が誘うようにギラリと光を宿していた。


「なんか悪ぃことしてる気分……」

かたく膨れて天井を向くそれを口に含むと、上から見下ろしながらベッドに座った電気が言った。悪いこと、と言う割に全然悪びれる様子のない面持ちでわたしが舌を蠢かせる様子に鼻の下を伸ばしている。

「そういうのが趣味なの?」
「なまえだからイイに決まってん……ぁ、それきもちい……」
「これ?」
「うん、そう……じょーず、っ」

まるい先端に沿って舌を回すように撫でると、彼の太腿がぴくんと反応した。彼の常日頃から正直なリアクションはこういうときでも例外はなく、肌を合わせる時に於いてそれはわたしにとっても興奮を煽るものとなっている。もっとそういう声や顔が見たくて、手も上下に遣いながら更に深く口に含んだ。

「あ、っちょ、……ストップ、」
「?」

咥えたままではろくに喋れず視線だけ送ると、少し焦った様子の電気と目が合い、手のひらを向けて静止しようとしてきた。
ベッドに座っていた電気がそこから寝転がる姿勢になると、このまま下着だけ脱いで、顔を跨いだ状態でして欲しいと言った。

「なまえもよくしてあげるって言ってんだから早くー」

人の顔に自分のあんなところを突き出すことを考えると身体がすぐに動かないで居たら、そう急かすように手を引かれた。
深々とした緑のスカートがめくられ、電気の目の前にはその下に隠れてたはずの場所が晒されている。

「めっちゃ濡れてんじゃん」

後ろから上機嫌な声がしたあと、言われた通りの有様となっている所へ舌が這う。少し遅れてわたしも再び電気のものを口に含んだけど、当然さっきより疎かだ。

「あ、っんん、ぅ、……!」
「すげーな、こんなヒクついて……えろ」
「んむ、むぐっ、ぁ、そこ、っ……」
「ぁは、もー俺のしてる余裕ないカンジ? かわいーね、っ」
「ちが、っふ、や……、あん」

わたしの中へ入ってきた指がもうとっくによく知られている箇所を小刻みに押し、同時に舌が蠢いていては言われた通りに余裕なんてものは葬られる。咥えてるだけで精一杯で、手や舌を動かすのも申し訳程度にしかできずにいた。もう達してしまいそうだったから。

「っや、イ、く……っっ、ぅ〜〜!」

火が点いたように触れられている箇所が熱を放って、腰あたりがびくびくと跳ねた。それが電気にわからないはずもなく、指が抜かれると太ももにキスが落ちる。
力が抜けてそのまま腹の上に凭れたい気分だったけど、このまま電気の顔にお尻を向けた状況でいるのが耐え難くて、横たわる電気の横に腰をおろした。

「さて、と」

言いながら勢いをつけて起き上がると電気がわたしの背後に立ち、そのままワイシャツの上から胸を鷲掴みにするとつけていたネクタイが外された。

「やっぱ制服といえばバックだよな〜」
「……いや知らないけど」
「なんだよー、なまえだって好きだろ」

正直に言えば電気に言われた通りだ。顔が見えないのは寂しいものの、これからそうやってされることを思うと期待するみたいにお腹の奥が疼く。
大人しくベッドの上で両手をついて腰を突き出すと、すぐに指より太いものでずぶずぶと中が埋まった。苦しさと快楽が綯い交ぜになり、思わず目の前のシーツを握りしめて目を閉じた。うなじに落とされる熱い唇のせいでよけいにゾクゾクと肌が粟立ち、入ってきたものの形をもはっきりと感じ取る。
吐息混じりに吐き出された呻き声が色っぽくて、鼓膜まで熱くなっていくみたいだ。

「でんき、っ、……!」
「やべーな、これ……優しくできねーかも」

いい眺め、なんておっさんぽい独り言を洩らす口角はきっと上がっているのだろう。いや、昔からエロいことに関してはこうだったかな。
いつもならこの後キスとか、身体のどこかに触れ合ったりしながら動かずにいる電気が早くも奥まで突き刺すように攻め立てるので、緩めたくても締め付けてしまって苦しい。この形を、大きさをすっかり身体が覚えているせいでなんの痛みも抵抗もなく身体が受け入れてしまったけど、昂ぶりきったところを間髪入れずにこうされては体温が振り切れるみたいに上がり続けてしまうようだった。きっと再び達するまで、そう時間は保たないだろう。

「や、ん……っ、でんき、電気……!」
「かあい……好きだよ、みょうじ」
「え、あ、やだそれ、っ」

急に苗字で呼びかけられて心臓がぎゅっと縮こまる。付き合ってしばらく経ったあたり、もしくはその更に前を否が応でも連想させられてしまうから。毎日この制服に身を包んでいた頃。こんなふうに身体を重ねるということもまだ想像つかなかったあの時。
ただのクラスメイトという間柄ではなくなってからもしばらくは下の名前で呼べず、顔を見るのも恥ずかしくて、手を繋ぐのにすら清水の舞台から飛び降りる思いだった、そんな甘酸っぱいころを思い出して急にサッと頬をはしる熱。

「ほら、なまえも呼んでよ。あん時みてーにさあ」
「……や、あ……っ、……」
「早く」

中を穿つ律動が止まり、急かすみたいに電気の手元が粘液に塗れた突起を指で撫でる。呼んでくれなきゃ動かない、とでも言いたいのだろうか。止まったままの電気のものを締め付けながら、動いてほしくて切なさに腰を揺らす。

「やだ、動いてよ……、っか、上鳴……!」
「……っ、はは、やば……超コーフンする」

先程より速さを増して行き来する動きに、とうとうすぐそこまで限界がきていることを悟る。互いを呼び続けながら、遠慮などなしに感じるところを突き上げられて更に声があがった。

「かみなり、すき、気持ちい、あっ、や……!」
「きもちいーな、みょうじっ……いきそー?」

その問いにも答えられないくらい目の前が明滅して、呼吸も荒い。答えなくてもおそらく解ったらしい電気がダメ押しとばかりに速度を上げ、聞こえる水音やざらついた吐息も烈しさを増す。
わたしを呼ぶ声も感じる体温も、腰を捕まえる手のひらも、全部がわたしのことを好きと伝えてきているんだって自惚れてもいいくらいに長くそばにいることを幸福に思いながら、より奥へ押し当てられる熱い迸りを感じ取るとわたしも最後を迎えた。

着たままの制服はとうにしわくちゃだろうけど、明日も着るということがまずないのが救いだった。
着ないはずだけど、背後からそのまま抱きすくめられて耳に落ちる「超かわいかった、また着て」という囁きに、喜んでくれるならそれも嫌じゃないなって思えてしまうあたりわたしは彼に甘い。



20211204


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