※冒頭官能小説のためお下品
※現パロではないつもりだけど同棲してる
※行為そのものはありません



彼女の黒髪を男は乱暴に掴むと腰を押し付けて陰茎を奥まで咥え込ませた。

「むっ、ぐ……う」
「歯ァ立てんなって」
「ごめ、……なさっ」

喉奥を狙って腰を唇にむかって叩きつけると彼女の喉が絞まる。それが男にとってはたまらずむくり、と亀頭を膨らませた。そのまま吐精してしまうのも良いが、しばらくしてから勿体ない気分で男は唇からペニスを引き抜く。

「……はぁ、っ、なあ、床に手ェついてみて」
「んん、っ」
「いい子だね」

命令通りに彼女は四つん這いとなると背後から男が慈しむように髪を撫でた。そのまま両手で腰を掴まれると彼女は、一気にこれからされる事への期待感で子宮が疼いた。




──と、そこまで書き進めたところでキーボードを打つ手を止め、伸びをするとバキバキと背中が鳴る。それだけ長時間熱中していたらしい。メモ帳アプリを上書き保存しておくことも忘れない。
明日も同じように進められるかは解らないけど、上手く行けば明日には自分のホームページに公開できるだろう。なんて有意義な休日。
もう少しで生活を共にしている恋人も仕事から帰ってくることだし、と考えて席を立とうとしたところだった。

「なに、またエロ小説書いてんの?」
「っ、わ!?」

椅子から転げ落ちるかと思った。

すぐ後ろから、もうすぐ帰ってくると思っていた彼──退が画面を覗き込んでいる。いつの間に帰ってきたのか、玄関のドアが開く音すら耳に入らないほど集中していたらしい。
ショートカットキーで全然違う画面を咄嗟に映し出したものの、見えていたらと思うと冷や汗が止まらない。
エロ小説なのは否定はできないけど、わたしがこんな趣味を持っていることはこれまで秘密にしてきていたはずだ。冗談でカマかけてる、と信じたいけどこういうことを言ってくるときはある程度確信を持っている時な気がしてならず、退の目をじっと見る。
それなりに長い付き合いだからわかる、なにかを面白がっている目。付き合う前からの趣味だけど、交際をきっかけにやめることも出来ずにいたのがここで仇となってしまった。

「なんとか隠せたって思ってる?」
「な、なんで……」
「俺、なまえが書いてた台詞結構再現してたつもりだったけどな。知られてるって気づかんかった?」
「……!」

退は隊服を脱ぎながらなんてことないように部屋着に着替え始めているが、わたしの脳内はそれに反して修羅場も修羅場だ。
再現してた、とは。一体いつから。さすがに今書いたばかりのものは無理だろうから、過去に書いたものの記憶を辿る。それから、直近で事に及んだ時の記憶も。もしかしてあのときのアレか……? いや、偶然だと思ってたけど、まさか。


「あーなんだっけ、アレ好きだよ俺。人妻が元ヤンに寝取られるやつ?」
「マジでよく読んでんじゃん……ファンなの?」

咄嗟に冗談めかして返したものの、すごく記憶に新しい内容をソラで言われて背筋が冷たくなる。すっかり部屋着姿に着替え終わった退が慣れた手付きでわたしの背後からパソコンを操作する。
インターネットブラウザを立ち上げてなにやら退が入力すると、わたしが小説を公開しているページが表示された。どこよりも見慣れたページデザイン。URLが短く覚えやすいという今更どうにもならないことを恨みながら、悪い意味で心拍数が上がってゆく。

「ブラウザ分けてまで大変だったねぇ」

たしかにこのパソコンなら共有していたから、頻度は圧倒的に低いものの退が触る可能性はあった。
だからこそ、ホームページの編集をするときはいつも使うのと別のネットブラウザを用いていたし、そのためだけにインストールしていたブラウザアプリはパッと見わからないようなフォルダへ格納していたはずだ。
書き途中のデータは基本スマートフォンにしか入れていないし……いや、専用にしていたブラウザが見つかって、履歴も消し忘れていたとしたっていうのは正直、ありえる。脇が甘かった。あの特殊警察組織で監察を務める彼に秘密を作るなら、もっと徹底すべきだった。

「……退、おもしろがってるよね?」
「うん、すごく楽しい」

やっぱり、といい性格をした彼氏に呆れつつ、引かれたり気味悪がられたりしなかったことに一応の安堵をした。
元々、多分引かないでいてくれるだろうとは思っていたし、ただわたしが恥ずかしい思いをしたくない一心で隠していただけである。それから、これらを読まれたとなると──

「で、なまえの本当の願望はどの話なの?」

うわー、出た。
と畏怖していた台詞が飛び出して眉根を寄せた。タチが悪いのは、わたしが書いた内容すべてが願望ではないということをおそらく理解しているであろうこと。
椅子に座ったまま縮こまって俯くわたしの顔を覗き込む退は、なんなら今した質問の答えもある程度予想できている気さえする。
わたしの前を塞ぐように椅子の肘掛けに置かれた手のせいで逃げられないし、前髪越しに額へ落とされるキスで一気に顔周りが熱くなっていく。なんで今すんの。

「だからイヤだったんだよ知られるの〜……」
「恥ずかしいね? 恥ずかしいついでに全部吐きな」

椅子の上で縮こまると、頭上から堪える気もなさそうな笑い声が降ってくる。このひとには敵わない、と観念して視線を上げた。音だって上げた。顔も上げればほとんど同時に退の顔が近づいてきて、唇が合わさる。肘掛けに置かれた手にわたしの手も重ねた。
観念したかわりに、離れた唇が「あとはベッドで聞くから」と囁いたことをこの先小説で使うことは意地でもしてやらない。



20211023


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