※彼氏持ち夢主が山崎さんと浮気する話
なので、夢主はそういう人間性です。
さて、どうして俺は知り合いの恋人だったはずの女性の部屋へお邪魔しているのだろうか。──そこを説明しようとするならば、時は1週間ほど前に遡ることになる。
非番の日に街へ繰り出すとたまたま、ちょっとした知り合いにばったり出くわして──そいつは一丁前に彼女連れだったにも関わらず──このままお茶しようと誘われた。正直気は進まなかったが時間はあったのと、断る言い訳も浮かばず、着いていくことにした。
その時話した内容自体は当たり障りなく、特に興味もなかったものの馴れ初めだとか、彼女が俺よりも歳上なことを聞いたりしていた。ただそいつの態度から、こんな可愛い彼女がいるっていうことで俺に対して悦に浸りたかったんだろうな、と結論づけてしまえた。
そこで男が厠に行った隙に、彼女は深刻な顔をして「相談したいことがあるんです」と言うなり俺に連絡先を渡してきたのだ。
まあ、俺から見て正直いけ好かない男だし、彼女のほうも鬱憤が溜まっていてもおかしくないと面白半分で連絡してみれば、会って話したいと言うのでのこのことこんなところまで来てしまった。それで、話したいことというのは──などと尋ねてみると彼女はきょとんとした顔で小首を傾げた。
「かわいいよね、山崎くんて」
「はい?」
「そういうの信じちゃうんだね」
ふふ、と妖しげに笑う女は台所に消え、暫くするとふたりぶんの温かいお茶を淹れて戻ってきた。この湯呑みはあいつも使ってたものなんだろうか、と途端に罪悪感が首を擡げる。
なまえさんが湯呑みを卓袱台の、俺の目の前とその向かいへ置いて、座った。
正直、会って話したいとは言われたものの犬も食わない程度の愚痴を予想していた。しかし相談したい、が嘘だとすると、それなら家に呼んだ理由は──と考えたらとんでもないところに足を運んでしまった、と顔を顰めた。
「帰らなきゃって思ってる?」
「えっと……」
「あの人の事なら気にしなくていいよ」
「しかし、あの」
「浮気されてるの、わたし」
微妙に噛み合わない会話の中、突如として放り投げられた事実に目を見開いた。それで、彼女はどうしたいのだろう。
「それより、山崎くんの……大きいってほんと?」
紅をひいた小さなくちびるが弧を描き、凄艶な表情に思わず下腹がぴく、と反応するのがわかった。大きいことに自覚はあるけれど、もしかしてあいつが、この人の恋人がそう吹き込んだのだろうか。
ただ、経験のなさがこういうところに出てしまって困るしかできない。女性にそこまで言われて、俺に対して性的な興味を持たれているというのはさすがにわかった。だとして、そこからどうすりゃいい。そもそも俺はどうしたいんだ。
なにかの罠だったらと思うと、その場に縫い付けられたかのように身体が動かずじっとしているしかなかった。落ち着くために茶を飲もうとしたところでようやく手が動いた。
「どうしたらいいか解んないって顔、してるね」
くすくすと笑いながら俺の隣に移動してきた彼女はそのまま腕をとり、俺の耳朶へ自らの唇を寄せた。こりゃ経験ないこと、伝わってそうだな。
心配しなくていいよ、とささやく声がまるで洗脳みたいに頭の中へ入り込んでくる。本当になんの心配もしなくていいように感じられて、このままではまずいと本能的に思ったが最後、唇が塞がれた。
ゆっくり喰むように動いた後、僅かな隙間から小さい舌が入り込むと絡め取られる。
「んん、……っ」
伏せられた瞼が震える。
下がった眉尻と相まって劣情を催すには十分な表情だった。情けないことにどうしたらいいか解らないまま、気がつけば背には畳があった。
「ぁは、もうおっきくなってる」
なまえさんの太腿にはすっかり大きくなったものが当たっていたらしく小さく笑う。
異性にそんなことを知られてしまったのは自分の知る限り初めてのことで、せめて顔色を悟られたくなくてなまえさんの腕をひいてこちらへ倒れ込ませる。あ、と小さく声をあげた彼女の背に腕を回す。
「さがるくん本当にかわいい。ねえ、好きなとこ触っていいよ」
腕の中で愉しげに笑うと俺の顔を見上げて言った。この人、俺の下の名前覚えてんだ──と思うと同時に心臓が締め付けられるようだった。まんまと俺は術中にハメられている。おそらくこの人は、自分の魅力を解りすぎている。
言われた通りにいきなり触りたい所からいくのはなんだか癪で、頭を撫でるところから始めて徐々に下へ手をすべらせていく。背中、腰、そして尻。服の上からでも柔らかさが充分に伝わる所為で、俺の緊張もこれでは伝わってしまうのではと焦燥に駆られた。
すると、なまえさんは起き上がり俺の手を膨らんだ双丘へ誘導した。
「こっちじゃないの?」
「……どっちかってェと好きなのは尻です」
今までになまえさんが相手してきた男たちはきっとそちらのほうが好きだったのかもしれない──と考えると否定しておきたくなったというのもあるが、事実でもあるのでそう答えた。
そっか、と柔らかく微笑むと着ていたワンピースを脱ぎ始め、身につけていた下着も外すと床に放った。完全に裸となった彼女が、俺に跨って着流しを脱がせようとしている。鮮烈な光景に目眩を覚えそうだった。
隠すものも全てなくなって、上向いた愚息をそっと握ると彼女は自らの肉壷に埋めるように腰を沈めていく。あ、喰われる──と本能的に思った。体を沈めているのはなまえさんのほうなのに、堕ちていくのは俺のほうだって思い知らされていくだけだった。
瞬きを1度するくらいの間に俺のそれは、蕩けきった未知の感触に呆気なく飲み込まれていく。
「おっきい、ね」
なまえさんの指先がゆっくり俺の腹を撫でた。擽ったさに身を捩りそうになりつつも、さすがにこれ以上格好悪い姿を曝け出したくなくてぐっと堪える。
それをしってか知らずかなまえさんの体がこちらがわに倒れ込むと、首筋に生暖かい唇が押し当てられて、俺のなけなしの意地は砕け散った。こんなんエロすぎる。ここに来た時はそんなつもりじゃなかったのに、爆速でここまで突き落とされてしまって思う。女ってコエー……。
「退くんは動かなくていーよ」
なまえさんがそう言いながら口角を上げると、ふふ、と笑う吐息が耳元にかかる。人の女とこんなことになっているという罪悪感が一瞬で溶かされていく。
「気持ちよくなることだけ考えててね」
「その、すでに……気持ちいいんですが」
それだけをやっとのことで告げると、さきほどよりよっぽど凄艶な笑みを浮かべてこちらを見た。それでいいよ、と答えると腰をゆっくり上下に揺らし、濡れた肉壁がぎゅっと俺のを圧迫して擦り上げてくる。自分の手なんかと全然違うそれに、早くも達してしまいそうだ。
「なまえ、さん……」
「なぁに? もっと?」
「いや、あの」
言い淀んで、繋がった箇所を見やる。なまえさんも気持ちいいのかどうかが気になってしまった。今しがた筆下ろされたてホヤホヤの俺がそうさせることができるなんて思っちゃいないけれど、どうせなら。
「なまえさんは、どうされるのが好きですか?」
ぴた、と彼女の動きが止まる。俺の反応を楽しむほどに余裕綽々といった表情から、戸惑いの色が広がっていくのが見て取れた。えっと、とうつむいて答えを探している。
「このまま抑えつけられたりとか……ここ触られるのはどうですか?」
言いながら左手でなまえさんの腿の付け根あたりを抑えつけ、ぐっと力を入れる。もう片方の手で濡れた花芽を親指でなぞった。
「待っ、や……ん」
「好きなんですね?」
確認するようにぐにぐにと軽く押すように弄くり回すと、ぴくりと腿が震えた感覚が左手に伝わる。図星を突いたのだと俺でもわかった。気を良くした俺は、下からそのままゆっくり腰も動かしてみる。うわ、動く度絡みついてくらァ。
「は、ぁあ、っ、や……」
「……っう、すげェ、気持ちいい……」
「あん、だめ、動いちゃ、っ……」
「ほんとにだめ? ……っ、じゃあ、教えてくれません?」
「んん、っ、恥ずかし……っやあ」
自分の上擦った声はできるだけ聞きたくないけれど、出てしまうもんは仕方ない。代わりに彼女の声が聞きたくて腰を回すように突き立てていく。先程より締め付けがキツくなって、嬌声が一際甲高くあがる。
「だめっ、そこやだ、っあ! 」
「やめますか? 痛い? ……っ、う」
「いたく、ない、……けど、〜〜っ」
「けど、じゃ解んないです、よっ……ちゃんと、言って欲しいな」
「あ、っぁあ、気持ちいい……っ、から、もっと……っ」
俺の左手になまえさんの手が重なる。潤んだ目と赤く染まった頬、揺れる乳房、悩ましく歪む表情、視界に入るもの全てが性感を高ぶらせていく。もうこのままいけばすぐに終わってしまうって自分で解ってて、なにも着けていないことを思い出した。
「は、ぁ、それで、っどこに出します……?」
「ぅん、いいの、このまま……っ、薬、飲んでる、から」
本当にいいのだろうかと少しの心配が頭を過るも、上に乗られてるわ自分でも彼女の腰を抑えつけてるわで、このままいけば出してしまう。そうは思っても突き上げる動きを止められないくらいに理性などブっ飛んで、烈しく奥へ自身を叩きつけていた。
「あ、ッ出して、イくから、っ、退くん、イく……〜〜っっ」
「……く、ぅ、なまえさ、……ッ!!」
なけなしの正常だった筈の思考がすべて焼き切れたのを感じながら、溜まっていたものを余すことなくなまえさんに注ぎ込んだ。
力の抜けた肢体が俺の方に凭れてくる。熱のこもった肌がさきほどまでの行為の烈しさを物語っていた。
「へへ……浮気し返しちゃった」
吐息混じりに笑うなまえさんはあくまでも無邪気にそういった。他人から見れば彼への当て付けに俺は使われた男なのかもしれないが、正直良い思いをしてしまった以上、そこまで利用されたという気持ちにはならなかった。
「どうして俺なんかと」
「彼、退くんのこと下に見てたみたいだから……わたしから見たら彼よりも魅力的だけど」
見上げてくる瞳は濁りなく見えるのに、恐ろしいことを言い出して戦慄した。俺のことを下に見ていた、はおそらく本当にその通りだけれど。つまり見下している男に寝取らせたほうがヤツにとって屈辱だろうと、彼女は考えたのだろう。なにそれこわい。
「ごめんね、迷惑かけるようなことには……絶対しないから、だから」
乗りかかった船だ、多少の迷惑なんてかかったって別に構わないしこうなりゃとことん付き合うつもりでいる。
彼女が顔を伏せてひと呼吸置くと、ふたたび俺を見上げて柔らかく微笑む。それを見る者すべてを恋に落とすような表情だって思うのは、俺が単純すぎだろうか。
「また会ってくれる?」
その問いにノータイムで肯定の返事をするつもりが、口から出た声は情けなく吃っていた。
20211231
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