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 ただいまー。言いながら美波は家に入った。返事はない。いつもよりがらんとした玄関に、母が帰っていないのかと納得する。兄は恐らく風呂に入っているのだろう、シャワーの音が洗面所から聞こえてきていた。
 そういえば昨日からうちに住むことになった彼は居るのだろうかと美波は胸を高鳴らせる。
 自分が追いかけているアイドルグループが貧相に見えるほど聖は格好良かった。脳内で出会ったばかりの男の姿を思い浮かべながら、いそいそとリビングに入る。
 とがった顎に、高い鼻。切れ長の目。程よく厚い唇。着物の袖から覗く腕はたくましく、浮き出た血管が男らしい。だらりと開いた胸ぐらからは盛り上がった胸筋が見えていた。
「かっこいい……」
 ソファに仰向けに寝ている聖をこれ幸いとばかりに観察する。寝顔すら整っているのは何故なのか。さらされた首筋から鎖骨のラインが大人の色気を醸していた。
 昨日帰宅して初めて聖を見た瞬間、今まで読んできた少女漫画が頭を駆け巡った。帰ったら突然イケメンが家に居てしかも同居することになるなんて、誰もが夢見る展開だ。年頃の娘がいるのに男性を家に置いて憚らないどころかノリノリの母なんて正に少女漫画そのもの。
 イケメンが強引に自分の部屋に押し入ってきてここで寝泊まりする、なんて展開にはならなかったが、むしろその距離感が良い。自分の部屋に入られたら間抜けな寝顔を見られてしまうし、流石にいろいろ恥ずかしい。
「暇なのか?」
 閉ざされていた唇が開いた。ビックリして離れると、テーブルに足をぶつけた。
「痛ッ」
 聖の目が不思議そうに見つめてくる。頬が一気に熱くなってきた。なにか言わなきゃと慌てて口を開く。
「ひ、聖さん……。こんばんは……」
「コンバンハ?」
 語尾の上がったトーンがどこか幼く、見た目とのアンバランスさに胸をぎゅっと絞られる。
 たまらずしゃがみこんで顔を覆う。
 これが……これが、萌えか!
 美波がギャップ萌えに目覚めた瞬間だった。
「今度はなんだ? 忙しないガキだな」
 聖が面白そうに笑っている。美波は顔を上げないままそっと尋ねた。
「い、いつから起きてたんですか?」
「オメーが人のことじろじろ見てた時から」
 ずっとじゃないか。耳まで赤く染めた美波が言い訳をしようと顔を上げて、その笑顔に再度胸を打たれるまであと少し。




こんな感じで圭助が風呂から出るまでに美波が聖の存在に耐性をつけていきます。この後周治が来て引き剥がされます。
少女漫画展開を全部食ってる圭助。
2015/01/07

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